出鼻をくじかれる


 「こーらー、いい加減に起きなさいよ! 休みだからって怠けてたらダメですからね」


 遠くから母ちゃんの声が聞こえ、俺の意識が覚醒する。階段を下りている音がするので、どうやらい部屋の外から声をかけてくれたようだ。


 「ん……朝、か。あれ、身体が動かない……?」


 昨日は激戦だったから、疲れているのだろうか? やはりポーカーは熱いなと思いながら頭だけ動かす。一応ベッドには寝ているけど――


 「すー……」

 「真理愛!?」

 「ん……むにゃ……」


 左腕が重いと思ったら真理愛が抱き枕にしていた。顔が近く、意識を集中すると柔らかいものが当たっていた。


 「うぬ……真理愛に欲情などするものか……平常心……いや、さっさとどかすか……」

 

 そう思って右腕を動かそうとするがこちらも動かず、目を向けると――


 「こっちは結愛か……」


 右腕は結愛が抱いていた。女子とはいえ二人の体重を受け止めるにはきつ……


 「ぐは!?」

 「うーん……兄ちゃんのアホー……」

 「起きているんじゃないだろうな……?」


 結愛のヘッドバッドが俺の顎に炸裂し、涙目になる。起こす勢いで結愛を引きはがすがまだ起きる気配は無かった。そのまま真理愛も剥がしてようやく身を起こすことができたところであることに気づく。


 「スメラギはどこだ?」


 ずっと真理愛に可愛がられていたぶさ猫の行方が分からなくなっていた。布団を剥いで見るも、そこにはおらず、そっとベッドを出て部屋を探す。


 「スメラギ、どこだ? まだ寝てるかな?」

 <ここだ>

 「うお!?」


 姿は見えずも声はする……!? どこだと目を皿のようにしてみると――


 「うわあああああ!? スメラギぃぃぃ!」

 <うむ>


 ゴミ箱に頭を突っ込み、だらりと体が出ているスメラギの姿を発見し俺は慌ててゴミ箱から引っこ抜く。


 <助かったぞ。にゃーにゃー叫んでみたが誰も気づかなくてこのままかと不安になった>

 「喋る訳にはいかないしな……」

 

 一体いつからそうなっていたのか分からないが、髭がシュンとなっているので結構大変だったようだ。そこで俺はベッドを見た後、はっとなる。


 「……今の内に出るか。こいつらに見つかったら面倒だ」

 <そうしよう……>


 着替えとスメラギを持ってリビングへ向かうと、母ちゃんがテレビを見ながら声をかけてきた。


 「修かしら? お昼、食べちゃってね。母ちゃん昼寝したいし」

 「確かに俺だけど、足音だけで判断するなって。……って、昼!?」

 「そうよ。昨日はお楽しみだったみたいだし、朝は起こさなかった母ちゃんに感謝しながらタラコパスタを食べるのよ」


 途中から母ちゃんの言葉は耳に入らず、俺は慌てて着替えると、ぼそぼそになったパスタを口に含んでコーヒーを飲みほして玄関へ向かう。


 「外出するの? 先生が見回りしているんじゃない?」

 「こいつの散歩だよ! すぐ戻る!」

 「変なところに行かないでよ? また警察の厄介になるとか勘弁して欲しいし。あ、母ちゃんと行こうか」

 「い、いいよ、恥ずかしい……行ってきますー!」

 「あ、ちょっと帰りに牛乳買ってきてー!」

 

 一度行方不明者が見つかったことで母ちゃんの警戒レベルが下がっているのは幸いだなと思いつつ外に出る。もし怪我でもしていたら監禁されていたに違いない。そこでスメラギが俺の手から飛び出し体を伸ばす。


 <ふう……>

 「よし、それじゃ行くか。くそ、時間があまりないぞ……リミットは夕方までだ、急ごう」

 <仕方あるまい、お嬢、今日こそ見つける!>


 俺は気配を消し、商店街方面へと走りだす。

 目指すは病院、村田のところだ!

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