始まりの序曲


 「ああああああ!?」

 「この馬鹿息子! 学校を抜け出すだけじゃなく、警察のお世話になるなんて!」

 「ま、まあまあお母さん……」

 「母さん、みんなも見ているから……」


 のっけから俺の悲鳴で始まったが、到着した両親、いや、母ちゃんの手により大打撃を受けていた。ウチは親父よりも母ちゃんの方が怖いのである。

 拳骨を受けた後、俺を抱きしめながら母ちゃんは涙目で言う。


 「……無事でよかったわ。事件に巻き込まれたって聞いたときは心臓が止まるかと思ったもの」

 「ごめん、母ちゃん……でも、八塚が行方不明になったって聞いて気になって」

 

 俺がそう言うと、足下に待機していたスメラギがひと声上げた。


 「ぶにゃー」

 「あらロクサブロー? じゃなかったスメラギだっけ、なんでここに?」

 

 まだ諦めていなかったのか……母ちゃんはスメラギを抱っこして背中を撫でると、若杉刑事が俺達に言う。


 「さて、ご両親の心配は当然のことだと思います。ですが、修君は最近起こっている行方不明者を見つけてくれました。衰弱はしていますが全員命に別条はないと聞いています。ですが、あと少し遅かったら何人かは亡くなっていたかもしれなかったのでお手柄ですよ」

 「はは、そう言っていただけるとホッとしますよ。それにしてもどうしてこんなところに……?」

 「それは調べてみないと、というところですね、神緒消防士長」

 「おや、私のことをご存じでしたか」


 若杉刑事がそう言うと、親父が驚いたように返す。関りが無さそうだけど、親父は現場仕事が確実ということで名前を知っていたらしい。それはそうと、ということで若杉刑事は俺に質問を投げかけてきた。


 「それで聞きたいんだけどあの行方不明者以外に人は居なかったかい? 話を聞いてみないとなんともだけど、集団自殺なんて話も上がっている。だけど、性別も年齢も職業もバラバラでそんな感じはないと思っている。第三者が関わっている可能性は非常に高い」

 

 ただ、集めている理由や集団で行った場合人目につきやすいからそこが不思議だと首を捻る刑事。しかし真実を話したところで伝わるとは思えないので、

 

 「俺が来た時はこの人たちが倒れているだけでした。このネコの飼い主を探していて、追いかけてきたらここに……って感じなんで」

 「……ふむ、そうか。まあ、誘拐犯がいたら君も無事じゃないか」

 「ええ、でも見つかってよかったです」

 「全員ってわけじゃないんだけどね。だけど、今後こういったビルや空き家も捜索する指針になったから、どちらにしてもお手柄だよ」

 「若杉さん、ちょっと」


 俺の肩に手を置いて笑いかけてきた若杉刑事に警官が声をかけると、俺達には聞こえないよう二人で話始め、すぐにこちらに向きなおり申し訳なさそうな顔で口を開いた。


 「すまない、全員が病院に収容されたからそっちへ行くことになった。事情を聞けそうな人が居るらしくてね。一応、今後は厳重注意ってことと、神緒消防士長の息子で身分は分かっているからここで解散でいい。でも何か聞きたいことが出来たら協力してもらうよ」

 「分かりました」

 「いや、お手数をかけてすみませんな」

 「いえ、事件が進展したので、悪いよりもまだお手柄の方が勝ってますよ! それでは」


 若杉刑事が手をすちゃっと上げてこの場を去ると、俺達家族だけが残される。現場検証の警官やマスコミなんかも集まっているが、俺が第一発見者というのは知らされていないためスルーされている。


 「結愛が待っているから帰ろうか、しかし本当に焦ったぞ」

 「親父もごめん」

 「でも、怜ちゃんが居なくなったのは心配ね?」

 「ぶにゃー……」

 「ああ。こいつ、必死で探し回っていたみたいだしな。とりあえず今日はウチに連れて帰っていいか?」

 「いいぞ、ご両親は?」

 「捜索願を出したって学校で聞いたよ。離したらまた探しに行きそうだからしっかり掴まえておいてよ」

 「はいはい。家に帰ったら洗ってあげないといけないわね」


 そのまま俺達は家に帰ると、激怒した真理愛と結愛に出迎えられた。


 「修ちゃん! なんで勝手に外に出たのよ! 怜ちゃんみたいに居なくなったらって心配したんだよお……」

 「兄ちゃん真理愛ちゃんを泣かせて最低だよ! アイス買ってきて!」

 「なんでだよ……すまない真理愛、こいつを見かけたから八塚が居ないか慌てて追いかけたんだ」

 「あ、スメラギさん……そうだったんだ……怜ちゃんは?」

 「あいつは居なかった。後は……警察の仕事だ」


 俺が言うと、親父たちが頷き遅くなった夕食が始まる。

 結愛と真理愛がスメラギを洗い、その後風呂に入った後、俺はスメラギを部屋に入れ話をすることにした――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る