既視感
「やっほー、修ちゃん!」
昼休み、いつも通り弁当を持って真理愛が教室へ入ってくる。女友達と食べればいいのにとも思うが、放課後に遊びに行くことで交流は出来ているからいいのだとか。
「おう、こっちに座れ……よ……?」
「おっと……」
俺もカバンから弁当を出しつつ真理愛を席に案内しようとしていたところでその後ろにいる人物に目を奪われて固まる。隣にいた霧夜も意外とばかりに眉を動かす。
「こ、こんにちは……昨日はありがと……」
「ど、どうして八塚が」
(おい、八塚さんが神緒にお礼を言っているぞ)
(そういやあいつをどこかに連れていっていたな……)
(まさかカップル成立!?)
(バカ、興津に殺されるぞ!?)
……ひそひそとクラスメイトが俺達を見て話をしているのが聞こえる。
「……!」
俺がそっちへ顔を向けると、クラスメイトはサッと俺たちから目をそらす。ったく、他人事だと思って勝手なことを。
まあ、校内でも美少女と言われる二人が目の前にいるのだから分からなくはないけども。
それはともかく、お嬢様を立たせたままにしておくわけにもいかないので俺は椅子を引いてうやうやしく頭を下げる。
「どうぞお嬢様」
「や、やめてよ……」
「修ちゃんあたしにはー?」
「勝手に座ってろ」
にこやかに首をかしげる真理愛に適当に言い放つ。
「……!」
「……!」
真理愛が襲い掛かってきたので、俺は箸を口にくわえたまま応戦を始めると、八塚が呆れたように笑う。
「仲いいわねえ」
「いつもこんな感じだから気にしなくていいよ。それより八塚さんが興津と一緒なのは初めて見たけどどうしたんだ?」
霧夜が弁当に口を付けながら八塚に話を振ると、真理愛が俺から離れて笑顔で椅子に座り、弁当の蓋を開けながら話し出す。
「昨日お友達になったからお昼を誘ったんだよ! スメラギさんは元気?」
「うん。のんびりした猫だから夜ご飯を食べてごろごろしていたわ。本当にありがとう」
「まあ、母ちゃんが拾ったから俺は家に連れていっただけだし、もうお礼は大丈夫だ。それより、また脱走しないように注意だな」
「もちろん。村田達にお願いしているからもう大丈夫よ、帰ったらブラッシングをしてあげないと外をウロウロしたせいか毛がひどいことになってたのよね」
「いいなあ、あたしもスメラギさんをモフモフしたい! あ、そのミートボールとタコさんウインナー交換してほしいかも?」
「多胡さん……?」
「誰だ……」
と、お嬢様が知らなかったタコさんウインナーいう存在に舌鼓をうちながらお昼が進む。そんな中、霧夜が口を開く。
「昨日はなかなか面白いことがあったようだな」
「お前も来てほしかったぜ。男が俺しかいないから肩身が狭くてよ」
「はは、両手に花でいいじゃないか」
霧夜はそういって笑う。他人事だと思って……と返そうと思ったが、霧夜の話は続く。
「そういえば昨日はひとりで帰ったけど、相変わらず事件があるみたいだ。母さんが言っていたけど、俺の家付近で不審者だそうだ」
「変質者かな?」
「なんで嬉しそうなのよ……お父様とお母さまが心配するのも分かるわね……しばらく学校を休めと言われたわ」
「誘拐犯とかだったら怖いしなあ。まあ車で送り迎えなら安心だろ」
「そうね、学校にはちゃんと通いたいからそれで押し通しているわ」
得意気に笑う八塚は近寄りがたい雰囲気でクールな感じと違い、年相応だなと思った。
(シュウはやればできるんだから――)
「!?」
「どしたの修ちゃん?」
「あ、いや……」
今のは……?
夢で見た″俺″の仲間で恋人だった……?
「どしたの、顔が真っ青だよ……? また具合悪い?」
「ハッ!? い、いや、なんでもない……って顔が近いな!?」
「いいじゃない、子供のころはよくおでこをこっつんってしてたし」
「ったく……なあ、八塚」
「なに?」
そういえば八塚も俺と一緒に頭痛で休んでいたことを思い出し、夢について聞こうとしたが――
キーンコーン……
「あ、もうこんな時間!? 怜ちゃん戻らないと!」
「そうね。それじゃ、戻るわ、楽しかった! またお邪魔させてもらうかも」
「ああ」
――お昼休みが終わり、聞きそびれてしまった。ま、いつでもいいかと俺は思い直し、弁当箱を片付けて授業の準備をしながら霧夜と談笑をする。
しかし、町を取り巻く異変が大きく口を開けて俺達を飲み込んでいくことになり、八塚は――
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