五月

10.桜並木

 電車通学も早一ヶ月。初めは楽しいなぁなんて思っていたのだけど、毎日毎日電車に揺られないといけないのは大変だと思い始めていた。大勢いてぎゅうぎゅうな中揺

られるのはちょっとね。


 そんなことを思い始めていた五月。とうとう桜が咲いたようだ。家の近くのも学校の前も良いだろうけど、電車を途中で降りて有名な桜並木でも見に行ってみようかな。


 善は急げだ。早速行ってみよう。


 学校の最寄りから電車に乗り、数駅のところで降りる。普段でも人が多い駅だが、今日はそれ以上にいるような気がする。みんな桜を見に来ているのだろうか。

たくさんの人の波にのり桜がある場所へゆっくりと移動する。


 すると真っ直ぐに並んだ桜の木が私の視界に飛び込んできた。奥へと続く桜の木は私を遠くまで導いてるかのようだ。静かに舞っている花びらはそれを見る人達の時間を止めている。その花びらが、突然吹いた風によって私の視界を奪う。


 乾いた目を瞬きで潤し、しっかりと目を開ける。少し向こうに先程まではいなかった少年が静かに桜を見つめていた。


 かっこいいとか可愛いとかそういう感じというより、儚さがあって美しいというのが似合う少年だった。絹のような光沢のある白い髪をしていた。


 少年は私に気が付いたかのようにこちらを向きにこりと笑ったように見えた。


「ようやく会えた」


 ゆっくりと動いた唇は、そう言ったような気がした。


 えっ、と思って誰か他の人に言ったのかと辺りを見渡すが、それらしい人はいない。視線を戻したものの、もうそこにはいなかった。


 なんだか不思議な体験だった。


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