諦めと希望(彩花side)

 私は、泣いてはいなかった。代わりに、拓真くんに頭を下げていた。


「そういうことね。小村さん、ね。ふーん。」


彼は、興味本位のような顔でニヤニヤしていたけど、私はお構い無しだ。


「本当に、ごめんなさい!そのために拓真くんを使ってたなんて……!」


「いや、別に。俺が彩花さんのためになったんなら……それでいいんだけど。」


そう言い、照れた顔で首を掻く彼は、「それじゃ、これはどう?」と提案をしてきた。


「俺と、付き合ってくんない?」


「それは無理です。私は晴海ちゃんが」


「わーってるよ。だから、偽カレカノ。」


「にせ……?」


「そ。俺は、彩花さんと仲良くできて嬉しい。そして、彩花さんは小村さんに見せつけられる。」 


「別に見せつけたいわけじゃ……。」 


「でも、俺たちがイチャイチャしてるの見たら、彩花さんのこと気になるだろうし、声をかけてくれるかもしれないよ?」


「でも、晴海ちゃんは……!」


拓真くんのことが好きなんだよたぶん、言いかけて、口を押さえた。そんなこと、言っていいわけない。


 どうしよう。やってみようかな、という気が私にはあった。なんか、さっきの温かさが、忘れられなくて……。今は教室の席に隣り合って座っているけど、さっき抱きしめられた教卓の横、そこを見ると、顔が熱くなる。


 それに……晴海ちゃんが私のこと、好きになってくれるはずないから……もう、1年半も待ってるのに、ダメ、だから。


 新しい恋に、進むべきなのかな。


「分かった。偽ってことでお願いしてもいい?」


結局私は、拓真くんの提案に甘えてしまった。





 そこから、2人で協力して、晴海ちゃんの視界に入るようにイチャイチャしてみた。拓真くんと見つめあって笑ってみたり、「たっくん」「彩花」と呼びあってみたり。それによって、やはり晴海ちゃんの心は動かされていたみたいだった。だってこちらを、哀愁の目で見ていたのだもの……。それに、私はたっくんの“好き”をもらって、そういうの初めての体験で。とてもとても、心が温かくなった。


 一緒にいて、安心する、って、思えるようになった。





 そして、冬休み直前の終業式。それまで、私とたっくんの関係は穏便、晴海ちゃんとは1度も話せなかった。


 つまり、何も変わらなかった。




 冬休みに入ったある日、たっくんから1通のLINEが。


“1月1日、一緒に初詣行きませんか?”


私たちの関係は晴海ちゃんと私をくっつけるためにあったので、たっくんとのデート(?)というか、お出かけみたいのは、初めてだった。だから、LINEももらうだけもらって、話すことなんて、ほとんどなかったのに。なんで誘ってくれたんだろう?


 まあでも、初詣は、行きたいし?


 うちの家族はみんな忙しくて、初詣に行かない派の人たちなので、久しぶりの初詣。私は結構、初詣好きなんだけどね。おみくじ引くのとか。


“はい、行きます(*>ω<)”


可愛い絵文字付きで、楽しみなのを表現した。

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