やめてよっ……
「んじゃ、帰りますか~。」
ほぼ初めてというくらいの友達と遊ぶという日が終わり、びっくりしたのは荷物の量。お互いになんか荷物増えてる。私は買い物なんて、久しぶりにした。私インドア派だからな。いつも家では本読んでるし。
「それにしてもたくさん買っちゃったな~。」
「………」
「?」
私は長らくの出来事に興奮していたけど、矢萩ちゃんは最初のときとは反比例して、いやに静か。なんか、苦しそうな顔してるけど、大丈夫?
「ん、どしたの矢萩ちゃん?体調悪い?」
「………ううん、ちょっとあそこのベンチ座ろ?」
「あ、うん。」
どうしたんだろ……?ショッピングモールを出てすぐのところにあった木を取り囲んでいるベンチに腰かける。なんかめちゃめちゃ矢萩ちゃんの顔が青白い……。ただならぬ緊張した雰囲気がひしひしと矢萩ちゃんから伝わってきて、怖かったから。私は自販機に行こ………うとした。でもそれは阻まれた。
……矢萩ちゃんの手によって。
私が立ち上がった瞬間、小さくて白い指が、私の手首を後ろからくい、と掴まれ、よろけて矢萩ちゃんの方に倒れる。それを見た彼女は、驚いた顔をして立ち上がり、私を受け止めた。私の方が少し背が高く、彼女の頭が肩にぶつかる。
一瞬が、スローのように流れていく。
そして、矢萩ちゃんが私を抱き止めている時間が長く感じた。
いや、ほんとに長かった。
「ね、ねえ、そろそろ離して?私動けな」
「やだ。」
「え?」
矢萩ちゃんのいつもの優しい、気遣いのある言葉ではなかった。なにか、焦っているような感じ?私を必死に繋ぎ止めるように。
「矢萩ちゃん、おかしいよ、や、やめて?」
「ずっと、我慢してた。これでもかってくらい、我慢してた、けど……」
ぎゅっと、私を掴む力を強くする。
「ごめん、もう無理。好きな人が目の前にいて、笑ってくれるんだよ?心配、してくれるんだよ?もっと触れたい、触れたいって、離したら、や………。」
私の腰を掴んで離さない矢萩ちゃんは、他の人からしたら可愛いで済むのかもしれない。でも、私はなぜか恐怖を感じた。内から込み上げる黒いもの。苦くて濃厚な感情。そして同時に脳裏に浮かんだのは、
拓真の、矢萩ちゃんへの悲しげな視線。
それを思い出した瞬間、その感情が矢萩ちゃんを吹っ飛ばした。
「きゃっ!」
「いい加減にしてよ!」
離れて初めて見えた矢萩ちゃんの顔は、ひどく傷つき、瞳が揺れていた。
それでも、なぜか止められなかった。
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