第39話 対峙
『ほら、ちゃんと目を開けて前を見なさい』
そう言われてセイラが恐る恐る目を開けると、凄い勢いで周りの景色が飛んで行く。かなりのスピードが出ていると思われるが、風圧をあまり感じない。
ちょっとだけ余裕が出て来たセイラは、いい加減ちゃんと聞かなければと思い、
「なぁ、あんた一体誰だよ?」
『あら、夢で会ってるはずよ?』
「へ? あ、もしかして巫女さん?」
『えぇ、梓巫女。名前はアンジュよ』
あの巫女さんの衣装可愛かったよなぁ、なんてセイラはつい場違いな事を思った。
「その巫女さんがなんで私に?」
『今に分かるわ。それよりあなた、弓を持ってない?』
「も、持ってるけど?」
セイラはリュックからクロスボウを取り出した。
『よろしい。いつでも撃てるように準備なさい』
なんでこいつ偉そうなんだっ!? 釈然としないまでも言われた通り弓の調整をするセイラだった。
◇◇◇
灰色の竜はゆっくりと腮を開き、魔力を収束させる。竜の口元から目映い光が溢れ、それが徐々に大きくなって行く。
ブレス!? クロウの時と同じ、いやそれよりも遥かに強大な...逃げなければっ! そう思うものの体は石化したように動かない。
諦めて目を閉じようとした瞬間、後方から凄い勢いで飛んで来た何かが竜を直撃した。放たれる直前だったブレスが霧散する。
何が起こったのか訝しんでいるリシャールの耳に、ここに居るはずのない者の声が響く。
「リシャール~!!!」
驚いて振り返ったリシャールの目に飛び込んで来たのは、黒光りする巨大な竜の背に乗ったセイラの姿だった。
夢を見ているのかと思った...王都で別れたはずのセイラが何故ここに? しかも巨大な黒い竜の背に乗っている。あれはまさかクロウ? なんであんなに大きく?
リシャールは思考が纏まらず混乱していた。そこへ竜の背からセイラの声が響く。
「この竜は私が相手するっ! リシャール、皆を出来るだけ遠くに避難させろっ!」
その声にやっと思考が追い付いた...が、避難しろだって? セイラを置いて? あんなバカデカい竜の相手をさせて? 冗談じゃ無いっ! そんなこと出来る訳が無いっ! セイラに守られるなんて本末転倒じゃないかっ! 僕が、いや僕達がセイラを守るべき立場なのにっ!...そう叫びたかった。
だが自分の意思に反して口から出た言葉は、
「...住民を避難させるぞっ! 急げっ! 動けない者には手を貸してやれっ!」
「で、殿下っ! 本当によろしいのですか!?」
レイモンドが慌ててそう言ってくるが、リシャールにはもう分かっていた。
「いいんだ。我々がここに居ても何の役にも立たない。むしろ邪魔になる。さあ避難を開始するぞ!」
そう、我々は足手纏いにしかならないと、悔しいがリシャールには理解出来てしまったのだ。だったらセイラが戦い易くなるように、我々は引っ込んでいるべきだろう。
後ろ髪を引かれながらリシャールは心から祈った。
(セイラ...どうか無事で...)
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