第27話 屋台にて

「呼ばれたって...誰に?」


 リシャールの問い掛けにセイラが答えようとした時だった。


「失礼致します、大神官様。そろそろ式典のお時間でございます」


 若い神官がゴドウィンに告げる。そう言われてリシャールも自分が式典に呼ばれていることを思い出した。


「あぁ、もうそんな時間ですか。申し訳ありませんが殿下、お話は後程ということで」


「えぇ、そうですね...セイラ、すぐ戻って来るからな。くれぐれもどこにも行くなよ?」


 くれぐれを強調してリシャールは言ったが、


「あぁ、分かったよ」


 セイラが言うことを聞くはずもない。



◇◇◇



「久し振りだな、ルイ。元気にしてたか?」


「セイラお姉ちゃん!」


 今、セイラは王都にある孤児院に来ていた。あの『聖女の奇跡』の時に助けたルイの様子を見に来たのである。あの時と違い、ルイは見違えるように元気になっていた。着ている服も安物ではあるものの清潔そうだ。


 これも一重に『エリクサー基金』のお陰である。セイラの作ったエリクサーを売った金で、ここ王都の孤児院のみならず国中の孤児院が恩恵を蒙った。


 セイラは孤児院だけではなく、老人ホームや障害者施設など福祉関係に金を回すため基金を設立した。だがエリクサーを気軽にほいほい作っていたら、有り難みがなくなるし、市場に流したら値崩れを起こす。


 だから基本は国に依頼された分しか作らない。それらは王侯貴族が高値で買い取るか、諸外国との交渉の切り札として使われている。


「ルイ、腹減ってねぇか? 屋台で何か食おうぜ?」


「やった~♪」


 ルイの日々の暮らし振りを聞いておこうと思ったセイラは、屋台広場に向かった。ここでは毎日、色んな屋台が軒を連ねている庶民の憩いの場だ。


 屋台を一通り見て回り、目ぼしいモノを両手一杯に買い込んだセイラとルイは、広場に設置してあるテーブルの一つに腰を下ろした。さあ食べようと思った時、隣のテーブルの会話がセイラの耳に入った。


「...じゃあ、エインツの町は相当ヤバい感じなのか?」「あぁ、なんでも邪竜が復活したとかなんとか」「噂じゃ何やら大きな影が飛んで行ったのを見たとか」「町の様子も暗く沈んだようだとか」「しばらく近付かない方が無難かもな」


 商人らしき四人の男達がそう話していた。 


「ルイ、ちょっと飲み物買って来るから先食べてろ」


「うんっ!」


 そう言って席を立ったセイラは、ビールのジョッキを四人分持って隣のテーブルに行った。


「おっちゃん達、今の話もっと詳しく教えて貰ってもいいかな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る