第12話 変身

 メイドに案内されて豪華な客室に案内されたセイラは、所在無げにベッドへ腰を下ろしていた。思い返してみれば、今日という一日に体験したことは、自分の短い人生の中でも一番濃かったと思う。


 リシャールとの出会いから全てが始まった訳だが、彼に対する印象は、実は初対面の時からさほど悪くなかったりする。


 王子様なのに偉ぶることも無く誰に対しても誠実に接し、身分を笠に着て差別したりもせず、自分に対しても常に気遣ってくれる。


 聖女候補を邪険には出来ないという打算的な面もあるだろうが、それでも彼の真摯な態度には好感が持てると感じている。


「とはいえ、結婚はねぇわな」


 身分差に加え年齢差。王族の大人の王子と孤児でガキな自分。釣り合う訳がない。


「そういや、ローリーって今いくつなんだ?」


 今更ながら聞いてなかったことを思い出す。少なくとも見た目や落ち着いた態度などから、20歳を超えてるのは間違いないだろうが。


「やっぱ無いわ~」


 そう言ってセイラがベッドに倒れ込んだ時だった。


「失礼致します」


 という声と共に、メイドさん達がぞろぞろと部屋に入って来た。


「な、なんだあっ!?」


 セイラは慌ててベッドから跳ね起きた。


「夕食の前にお風呂に入ってキレイにしましょうね♪」


 と言うなり、セイラを囲んで一斉に服を脱がし始める。


「お、おいっ! だ、大丈夫だって!  ひ、一人で入れるからっ!  だ、だから脱がすなってぇ!」


 という心からの叫びも空しく、すっぽんぽんに剥かれたセイラは、風呂に放り込まれた。頭の天辺から足の爪先まで、メイドさん達に丁寧に磨かれ、マッサージまで念入りに施されたセイラは魂が抜けていた。


 (うぅ...もうお嫁にいけない...)


「さあ、次はお着替えしましょうね♪」


 最早セイラに逆らう気力は無く、メイドさん達の着せ替え人形と化していた。ああでもない、こうでもないと何度も着せ替えられ、疲れを取るはずが逆に疲労困憊になってようやく決まったのは、セイラの艶やかな黒髪に良く映える白を基調としたシンプルなラインのドレスだった。


 最後に髪をアップに結い上げ、軽く化粧を施されたセイラを見て、やり切った感のメイドさん達は、


「まぁまぁ! なんて素晴らしい! お綺麗ですよ、お嬢様!」


 天使だ妖精だ美の化身だなどと口々に褒め称える。訝しんで鏡に映る自分を見たセイラは絶句した。


 (これが私!?)


 そこには美の女神が降臨していた。


「う、ウソだろこれ...」


 呆然としているセイラだが、元々素材は抜群に良いのだから、化けて当然なのである。

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