詫び石5つ目【ガチャ単発N売却】

「それで、こっちが森で狩ったタイガーで……」

「さすがでした、ご主人様! 鮮やかなお手前で……っ!」



 ドサリ。

 ついさっき倒したばかりの死にたてほやほやな肉と毛皮をよく見えるよう広げてテーブルに置いた。



「お、おお……」

「こっちは子供のドラゴンが落としていった鉱石と、」

「さすがでした、ご主人様! 石を拾う姿すら麗しかったです……っ!」



 コロリ。

 艶のある黒だが光を当てれば鈍く虹色に光る鉱石らしき物を添える。



「ふむ……」

「これは一応価値があるかと思って持って来ました。どうですか?」

「さすがです、ご主人様! キノコすらよくお似合いです!」



 紫色のクソデカキノコを見て、商人の老人はゆるやかに首を振った。



「それは毒キノコじゃ。買い取って欲しければ薬屋に持って行くと良い」

「そうですか……わかりました」

「さすがです、ご主人様! 息継ぎする姿も素敵です……っ!」



 先ほどから何か言いたげにしていたご老人は、もう我慢ならんといった様子で躊躇いがちにルロちゃんを指差しながら俺を見る。



「……この娘は?」

「気にしないでください、合いの手担当みたいなものです。俺も彼女の可愛い声を聞けてWIN-WINな関係なので問題ありません」

「いや、うるさくて気になるんじゃが……」

「可愛くて気になる……!? 売り物じゃありませんよ!!」

「違う!! うるさいくて気になるんじゃ!!」



 う、うるさいだなんて失敬な……この天使のハーモニーがお気に召さないなんて、きっとお迎えの遠いご老人なんだろうな。


 だが、健康で長生きなのは良いことだ。



「それで? いくらで買ってくれるんですか?」

「うおっ……急に態度がでかいな。驚いたじゃろうが」



 ご老人は持っていたルーペをテーブルに置くと、左上を見みながら両手の指を何度か折る。



「そうじゃな……ざっと30ベリーといったところか」

「よっ! もう一声!」

「その手には乗らんぞ」

「さすがです、ご主人様! 値段交渉もできるだなんて!」

「君は本当にうるさいのう!?」



 とか何とか言いながらも、結局40ベリーで買い取ってくれたので良いご老人だ。


 さて、次の目的地へ……と踵を返した時。ご老人は俺の腕を引っ張り顔を寄せてくる。



「え? なんですか? すみません、男性に別れのキスをするのはさすがにちょっと……」

「違う!! 誰がいつ接吻をせがんだ!! そうじゃない、あの娘のことだ!!」

「?」



 ルロちゃんに硬貨の入った袋を渡し「少し待っててね」と言って再度ご老人に向き直ると、彼女に聞こえないよう配慮してくれているのか声を潜めてこう言った。



「エルフの娘を連れて歩くと、目をつける連中もいる。勿論、攫って高値で売り飛ばそうと目論む輩も大勢のう。気をつけるんじゃぞ」

「あっ、それは大丈夫です! ルロちゃんを狙う奴は女子供以外みんな氷像にすると決めているので!!」

「うおっ、爽やかな顔で言うな! 驚いたじゃろうが!! まあ……君なら大丈夫そうじゃな。良い旅を」



 そして俺は、ルロちゃんにおやつの菓子パンとジュースを買ってあげてから次の目的地へ足を進めた――……。

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