詫び石2つ目
今までのあらすじ……第1話が改行を除いたら999字ぴったりだった。
◇
「ほう、なるほど……事情はわかった」
さすが一番長い付き合いの老人Aだ、話が早い。
あの後しばらく俺に冷たい眼差しを向け続け、常に半径2m離れて会話してきたものだからこの恩知らずの老いぼれめ氷漬けにしてやろうか? などと闇に心が蝕まれかけてしまったのだが、なんとか俺の身に起きた『異常』を理解してくれたようで、ようやく半径45cm距離を置く程度に戻ってくれたのだ。
ところで話は変わるが、この村にもう1つ氷像が欲しいな……。
「無駄に筋力も上がっているみたいなんだ。まだ制御の仕方がわからなくて家の料理器具を壊しちゃったし、このままじゃ普通に暮らすのも難しい。どうしたら……うーん……」
その場に立ったまま頭を悩ませていると、椅子に腰かけていた老人Aは体をこちらに向けると、驚いたように目を丸めてこう言った。
「何を言っておる! お前は『勇者』になるしかないじゃろう!」
「ゆ、勇者……? なに言ってるんですか、俺がなれるわけ……」
「何を言っておる! お前は『勇者』になるしかないじゃろう!」
「ですから、冗談にしても笑えませんって。俺は、」
「何を言っておる! お前は『勇者』になるしかないじゃろう!」
「あー、わかった。正しい選択肢を選ばないと先に進めないタイプの会話イベントだ」
俺にはわかる。
なぜならメンテナンスが明ける前までは俺も“あちら側”の人間だったから。
俺はよく、森の分かれ道は左右どちらに行くのが正解かって助言をプレイヤーにしてたな……今となってはなんだか懐かしいや。
「何を言っておる! お前は『勇者』になるしかないじゃろう!」
「老人A……背中を押してくれるんですか?」
▷「そうですよね!!」
ほら、なんか勝手な二択を迫られてるし。
まあ、いいや。
ここまできたらこのバグ祭、楽しんでやろうじゃないか……!!
「そうですよね!! 俺、勇者……になれるかはまだ自信ないけど、旅に出てみようと思います!!」
「そうじゃ、それが良い……キミ、昔言っておったじゃろ。『勇者みたいに、いつかこの村を出て広い世界を旅してみたい』とな……」
「老人A……」
そんないつの話かも分からないような事を覚えてくれていたなんて……思わず涙がこみ上げるが、ぐっと堪えて老人Aに頭を下げた。
「今までお世話になりっぱなしで……本当に、本当にありがとうございました……!!」
「フォッフォ、今生の別れのような挨拶じゃのう。また会える日を楽しみにしておるぞ、勇者殿」
その後――……、
「ぐあぁあああーっ!!」
「ろ、老人Aーッ!!」
隣町の駅まで見送ると行ってくれた老人Aは村を出た瞬間に誤作動防止プログラムが発動して服が弾け飛び、あられもない姿まま俺を睨みつけつつ家へ帰っていった。
(なんで俺の服は無事なんだろうか……これもバグ?)
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