第65話異世界からの来訪者5

 俺はドラゴンスラッシュを構え、スティーグの隙を伺う。


 そして、スティーグはといえば、例の剣を抜いた後は、だらりとそのまま腕を下にたらした状態。


 攻め込める隙はある。


 だが、俺は動けないでいた。


 なんだこいつ・・・。


 攻め込まる隙は確かにある。

 しかし、その先のヴィジョンが沸かない。


 そこからどうすればいいのか、どう組み立てていけばいいのか、この男がどう出るのか、まるで思い浮かばない。


 俺は間合いを詰めつつも、じりじりと横に移動し、決定的な隙を伺う。


「どうした、来ねえのか?」


 スティーグはそう言って、俺を挑発する。


 が、それが動くきっかけとなった。


「ふっ!」


 レベル70の身体能力で一気に間合いを詰め、一閃。

 それをスティーグは動じることなく軽々受け止めた。


「!?」


 受けきる可能性も考えていたが、まさかこれほど容易く。


「へぇ」


 スティーグはわずかに眉を上げ、薄く笑う。


 こいつ・・・。


「はぁ!!」


 そこから高速の剣戟。

 だが、これにもスティーグはついてくる。


 後ろでは全員が息をのみ、「嘘」と、アティが呟いた。


 俺と互角、いや、こいつにはまだ余裕がある。


 自然な動きで俺の攻撃を受け流す。


 剣の技量自体は俺とさして変わらないだろう。


 が、驚くべきはその身体能力。

 この俺と同等かそれ以上。


 これほど余裕をもって動けている理由はまだある。

 こいつの先読みだ。


「っく」


「そらそら」


 とにかくこちらの嫌がる攻撃をしてくるのだ。


 それにこっちが仕掛けようとする前にそこに置いてくる形で邪魔をする。


 実にいやらしく、こっちの思惑をつぶしてくる。


 俺の動き、いや、俺の心理を読んでいる。


 俺は何と戦っているんだ?


 一人の男と、剣士としてやりあっているはず。


 だが、こいつと戦っていると、レオダス俺という一人の人間を見られているような、見透かされているような、そんな錯覚を覚える。


「くそっ」


 俺は堪らず一度距離をとった。


 それを見て、スティーグはにやりと笑う。


 こちらの心理を完全に読んでいるかのような嫌な笑み。


 俺はその挑発めいた笑いに乗ってしまった。


「“ファイアバレット!!”」


 前方に手を突き出し、魔法を唱える。


 本来であれば、一つの火炎弾が飛ぶはずの魔法なのだが、俺が使うと、いくつもの弾が出現し、それがスティーグ目掛けて撃ち出される。


「あっ」


 撃った後に苛立ちから浅慮な行動をしたと後悔した。


 俺の魔法をまともに食らえば人間などあっという間に粉みじんだ。


 不味い!


「おお、さっきも見たが、これがこっちの世界の魔法か」


 呑気にそう言うと、スティーグは霞むほどの速さで剣を振る。


 俺は驚愕のあまり目を見開いた。


 この男は俺の火炎弾を全て剣で斬り捨てたのだ。


「そんなっ」


 アティはほとんど悲鳴ともとれる声を上げた。


 スティーグはというと、剣を軽く振り「ふむ、こっちの魔法も斬れるな」と、何の気なしに呟く。


 俺は唖然とし、戦意を失った。


 なんだ、なんなんだこいつは?


 確かに、あの剣はとんでもない業物だ。


 魔法を斬ることも出来るかもしれない。


 実際にアトスの聖剣でも斬れると思うから。


 しかし、こいつの戦闘センスと身体能力は一体何なんだ?


「さて、こっちでも俺は魔法を使えるのかな?」


 そう言うと、だらりとしたまま、スティーグは内なる魔力を外へと、放出した。


 途端、


 ゴッ!!と、大気が震えた。


「なぁ!!」


 ビリビリと衝撃がここまで伝わり、地面が鳴り響く。


 なんだ、この膨大な魔力は!!


 スティーグの魔力は天井知らずに上がっていく。


 馬鹿な、こんなことがあり得るのか!


「あ、やべ、暴走してる」


「おいいい!!!!」


 そんなちょっと窓を割っちゃったみたいな気軽さで言うな。


 こんな魔力が暴走したら、ここら一体が吹き飛ぶぞ。


「そう慌てるな。こう、気合でっ、と」


 スティーグは溢れ出る魔力を強引に抑え込む。


 そして辺りを震わせていた魔力を自身の中へと納めた。


「はっ、はっ」


 俺は小さく呼吸した。


 あれだけ、膨れ上がった魔力を意思の力で強引に抑え込んだ。


 さながら、爆発寸前の爆弾を力付くで押さえつけるかのように。


 軽く言っていたが、それがどれほどの神業か、魔法剣士である俺には、十分に理解出来る。


「・・・あんた、いったい何者なんだ?」


 思わずそう尋ねてしまうと、スティーグは実に自然に答えた。


「んぁ? だから異世界で先生をしているんだって言ったろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る