第30話 先々代王弟ドゥウェルヴィア公爵家

「さて、先程の、マリアンナ王女のお言葉に、ひとつ理解できないものがあったね。

 システィアーナが、王族の一員になるために、息子達との婚姻を狙っている、だったかな?」


 マリアンナを見下ろすように立っているエスタヴィオは、表情かおは笑っているように見えるのに、目は全く笑っていなかった。


「は! ははっ⋯⋯ 有り得ないね!!」


 まるで演劇を──国王が愚か者を追及する断罪劇を見ているかのような錯覚を起こすほどに、芝居がかったポーズと動きに台詞セリフまわし。


「なぜなら、彼女は生まれながらに侯爵令嬢でもありながら、先々代王弟の孫娘、公爵令嬢でもあるのだからね。態々わざわざ王子達と婚姻する必要などない」


 父親がハルヴァルヴィア侯爵であるので、男児が生まれず後継ぎである事からも、一番多く名乗られる身分は侯爵令嬢であるが、母エルティーネが女公爵を引き継ぐ後継である事を放棄してロイエルドの元に嫁いだので、自動的にシスティアーナがドゥウェルヴィア公爵の後継候補なのだ。


 実際、先々代国王エイリークが崩御した時に、身体の一部に高度障害状態のある王太子ウィリアハムが即位していなかったら、祖父ドゥウェルヴィア公爵はエイリーク王の同腹の王弟で優秀ゆえに、国王であった可能性もあった。

 世が世なら、システィアーナは王太孫だったかもしれないのだ。


「序列で行けば、アルメルティアは元より、トーマストルやフローリアナよりも、再従はとこ叔母おば殿の方が上なんだよ。本当はさ」


 マリアンナと足元に伏せる侍女くらいにしか聴こえない小声で、デュバルディオが自慢げに話して聴かせる。


 王宮内で職を持つ、高位貴族や文官達以外には、秘密ではないが普段あまり意識されない事柄で、二代前の王位継承問題ゆえに若い貴族達の中には、知らない者もいるだろう。

 夜会に出る貴族子息令嬢の多くは、ただの『薄紅の姫君』と言う愛称で呼ばれる侯爵令嬢、という認識しかないだろう。


 高位貴族が複数の爵位や領地を持っている事は、さほど珍しくもない。

 父親(一親等)であるロイエルドが侯爵当主であるから侯爵令嬢と名乗るが、祖父(二親等)の公爵位を継ぐ資格のある血縁者もシスティアーナ(とソニアリーナ)しかいないのだ。

 ただ、ロイエルドもエルティーネも今の所、ソニアリーナを公爵家の養女に出すつもりはなく、ハルヴァルヴィア侯爵家から嫁に出すか、婿をとって領地内で手元に置く予定である。



「そ、そんな⋯⋯」


 自分は、を敵に回したのか。自分達は何をやらかしてしまったのか。


 例え、他の公爵家の者より序列が上の立場だと知らなくても、王子王女と交流が深く王宮内で名が通っていて、公務や慈善事業にも精力的なシスティアーナ。

 王宮で働く者にも、馴れ馴れしく話し掛ける自称紳士はほぼおらず、彼女の立ち位置を羨む行儀見習いと称した男狩り縁談募集中の令嬢達も精々陰口を叩くくらいで、好意も悪意も、直接向ける人物は少ない。

 衆目の中婚約破棄宣言をしたオルギュストくらいのものである。

 彼もまた、王族傍系卑属である公爵家の自分が、臣下貴族家の侯爵令嬢のシスティアーナに対して婚約破棄しても、多少の醜聞くらいのものでさほど問題はないと、軽く考えていた口だった。




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