第50話 マリアンナに阿る上位貴族?
マリアンナが見目のよい騎士を伴って薔薇園の通路から抜け出すと、奥宮と表宮との渡り廊下から庭園に出て来る集団と出会った。
一般人にも一部解放している表宮から奥宮に連なる渡り廊下や庭園に出入り出来る身分──王族かその傍流と一部の許可を得た上位貴族、上級使用人及び近衛騎士──なのだろう、フロックコートの内側に厚地のベストを着込んだ壮年の男性は、やや横柄そうにマリアンナを見る。
同じく紺のコートとトラウザーズの二十歳前後の青年と、淡い卵色のオーガンジーサマードレス(ゆったりとしたドレス)にオーガンジーのオーバースカートを重ね着した、金の巻き毛の少女が男性の後ろについて歩いていた。
少女は、マリアンナにカーテシーで挨拶の姿勢をとる。
青年も、無言ではあったが腰を折って頭を軽く下げた。
フレキシヴァルトの護衛騎士アスヴェルが背後に控えてついているのだから、それなりの身分の令嬢だと見たのだ。
エステルヴォム公爵は、自身が、傍流ながら王族で年長であることと、目の前の騎士にエスコートされた息子と変わらぬ年頃の娘と、どちらが目上で先に名乗るべきか計りかねた。
マリアンナはあまり公務に熱心ではなかったので、外務省の官僚や文官には顔を知られていても、他部署の役人や貴族達には覚えられていなかった。(残念!! 自業自得)
「エステルヴォム公爵家現当主ハルサム・ガルム・アルタイラである」
「リングバルド王国王太子が息女マリアンナにございますわ」
なんと!! 隣国の王女だと!?
王族を詐称する事は、バレれば絞り首などの重い刑を受けることになるので、王宮内では特に、有り得ないだろう。しかも異国のだ。
先に名乗ってよかった⋯⋯ 胸をなで下ろすハルサム。
隣国の王女か。お近づきになっておいても損はないか?
マリアンナの噂を知らないのか、愛想を振りまくことにしたようだ。
後ろで、兄妹が呆れた顔をしているのにも気付かず、マリアンナを持ち上げていくハルサム。
「公爵家なら、王家に近い存在よね? 王太子や我が
あからさまにアレクサンドルの婚約者候補と言わない辺り、少しは考えたのか、いるかもしれない隠された存在を認めたくないのか。
「今日も茶会でその話をしたばかりですよ。陛下にはお考えがおありなのだろうが、いい加減、王太子殿下も二十歳ですからね、そろそろではないかと思うのですよ。
デュバルディオ第三王子殿下も、公務の関係でハルヴァルヴィア侯爵令嬢と仲が良いようですが、特定の女性との話は聞きませんな」
その曖昧で何も判らないに等しい言葉を聞いて、マリアンナの興味は逸れた。
「まあ、ドゥヴェルヴィア公爵家縁の姫君ですからな」というハルサムの言葉は聞き流す。
「あら、そ? また会うまでに何か判ったら調べておいてね」
また会う気など毛頭ないだろうに、脊椎反射のように適当に命じて立ち去るマリアンナ。
(何? ディオとも仲がいいの? あの薄ピンク頭。侯爵家の小娘のクセに図々しい)
エステルヴォム公爵家の面々に背を向けるなり、口元を歪めて悪態をつく姿は、些か醜悪と言えた。
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