第18話 農園で



 王家の山荘が一番高台に建っているが、林道を進むと左右に薔薇のアーチや精緻な彫刻の飾られた門柱が点在し、その奥は貴族や豪商の別荘地となっている。


「どこの家も凝ってるわね」

「ある程度は権力と財力がある事を見せる為に、その中でもセンスの良さも見せたくて、こうしてそれぞれ立派な門になるんだろうね」


 昨日は海に近い町まで馬車で移動したが、今日は麓の農園が目的である。

 運動も兼ねて歩いていた。


 この辺りは上流階級の別荘地で、治安も良いので、護衛騎士も離れて警護している。


 ユーフェミアとデュバルディオ兄妹も特に警戒なく林道の緑と、景観を損ねることなく趣向を凝らした庭が透けて見える門扉や装飾の凝った鉄柵を楽しんでいた。


 何も妹と会話しながら歩くのなら、システィアーナの相手を譲ってくれてもいいのではないか?


 エルネストの心中はその笑顔ほど穏やかではない。


 別荘地を通り過ぎ、左右の緑が深くなってくると、門のない道が幾筋か現れる。


 農園に続く道である。


 収穫物や肥料、農具を運んだりするために馬車も通れる整備された道で、そのうちの一つが、本日の目的地、王都に柑橘類を卸している農園である。



「お待ちしておりました。ようこそ、カルディナーレ青果シーファーク農園へ」


 王家の姫がシーファーク発展の立役者の孫娘と共に視察に来るとあっては、農園長が自ら、分かれ道の入り口に立って待っていたようだ。


「お忙しいのに、農園長自らの出迎えありがとう。少しの間、お邪魔しますわ。 わたくし達には気を使わずに、いつもの通り作業をしててちょうだいね」


 エルネストのエスコートで園内を見てまわり、機嫌よく微笑むユーフェミア。


 足場のよくない所ではエルネストが手を引き背に手を添える。

 作業用の農馬が知らない人達に興奮して鼻を鳴らしたのにユーフェミアが驚くと、すっと前に出て、あろう事か初見の興奮した馬を宥めて大人しくさせる。


「お従兄にいさまは、馬の扱いがとてもお上手なのよね。警戒心の強いよその馬ですら、仲良しになれるのですもの」

「僕は、調教済みの騎乗馬なら扱いは悪くないと思うけど、あんな興奮した農馬の機嫌をとるなんて出来ないな⋯⋯」


 素直に感心するディオに、システィアーナが自慢げにつけ足す。


「馬に限らず、番犬や狩猟犬、鷹、飼い猫やうさぎ、何でも好かれるのよ」


「それは⋯⋯凄いな、ちょっと羨ましいかも」


 エルネストの人好きのする笑顔と温かな雰囲気は、人に限らず動物にも有効らしい。


 農園で飼われている家鶏が後を付いてきたり、池に出入りしていた鴨や水鳥まで寄ってくるのである。


「なにか、動物の好む匂いでも出してんじゃないの? エルネスト」

「餌になるものを持っているのかしら?」


 美形兄妹の疑問に、エルネストは首を傾げ返答に困るばかりで、システィアーナが「お従兄にいさまは以前からこうですわ」と助け船を出しながら、昼食まで園内をまわった。




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