第5話 宝石のような

「聞いてません」


 システィアーナに聞かされていたのは市場の視察。


①活気と、人々の様子、外国の人間がどのくらい歩いているか、などを見て回り、

②商工会の長と町長との会談、一泊して、

③翌朝諸国の領事館代表達と会談の後、新設の大型客船で一泊、

④感想や意見を述べて、町でゆっくりした後、

⑤翌朝王都へ帰路につく、


というもの。


 新設の客船ならば、進水式はあるだろうが、それに出席するとは聞いてないし、更には、そこからアレクサンドルが合流するとも聞いてない。


 ①の市場の視察から②の商工会長や町長との会談の後、③の領事達と会談と新設の大型客船で一泊との間に、進水式やアレクサンドルが合流するという予定はないのだ。


「ふふふ。驚いた?」

「ミア? え? まさか、知ってたの?」

「勿論よ」

「どうしてもサプライズしたいって言うから」


 訝しげにディオに視線を送ると、両手を掲げて降参のポーズで目をそらす。


「こんなサプライズ企画、何の意味が⋯⋯」

「びっくりしたでしょ?」

「ええ」

「ドキドキしたでしょ?」

「そうね」

「サプライズ成功よね?」

「⋯⋯⋯⋯」


 ドキドキしたとか、驚いたという点においては、間違いなく成功だろうが、サプライズする必要性、ドキドキさせる意味はなんなのか。


「はっ。それで、マリアンナ殿下がついてきたの?」

「あれは誤算よね。どこで聞いてきたのか知らないけど、ついてくるとは思わなかったわ」


 そもそもが、使節団と共に入国した隣国の王女が、王家とも外戚とは言え自由に国内を旅行するなど聞いたことがない。


「マリアンナ王女がいるの?」

「ええ。お兄さまが先に別件でお出かけになられたでしょう? その後、私達がここへ来る道中に合流してきて、理由も言わずに一緒に行くの一点張り。他国の王女なのに勝手は困るわ。何かあったら、国際問題になっちゃうじゃないの」


 ユーフェミアの言うことももっともである。


「ここには今はいらっしゃらないようだけど?」

「カルルに押しつけてきたのよ」

「⋯⋯カルルまでいるのか。確か、休暇中なのでは?」

「だから、どこへ行くのも自由なんですって」

「そうか⋯⋯」


「あの」

「ああ。ごめん、少し放置してしまったね。ジュエルドリンクはここ数年で、外国の観光客向けに考えられた、土地の名産品を使ったものなんだよ。知ってたかい?」

「いいえ。以前、お祖父さまと来た時には見たことがありませんでしたわ。美味しそうですし、見た目もとても綺麗」

「こうすれば、ティアの色だね」


 システィアーナの、器を持つ両手ごと押さえて高く掲げ、陽光に透かすと、ドリンクが濃いローズから明るいローゼピンクになる。


 見た目が、ユーフェミアやエルナリア王妃にそっくりな柔らかく綺麗な顔立ちで、騎士や漁師、農民に比べてほっそりとしているのに、液体がたっぷり入った顔が入りそうなほど大きめのガラスの器を掲げる力があるように見えない。

 ダンスで手を取った事もあるのに、改めて、自分の手を覆えるほど、手が大きいのだと再確認すると、どことなく居心地が悪い気がした。


「これを考えた人は、公爵に連れられているティアをイメージしたんだろうね」


「そ、そうでしょうか?」


「でなければ、鉱山が近いわけでもないのに、ルビーローズとかジュエルドリンクなんて名付けないんじゃないかな?」


 アレクサンドルは微笑んで、天幕の下、喫食コーナーへシスティアーナ達3人を促した。




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