第17話 伴侶選びの大切さ
国王自ら淹れた紅茶を手渡されるエルネスト。侍女や執事を人払いしてあるからなのだが、色々とあり過ぎて混乱しそうになっていた。
「まあ、正妃の生んだ嫡男で第一王子である以上、いずれ王太子に、王になると目されていたのでね、時の王の選んだ正妃を娶るしかない訳なんだけど」
一度カップをソーサーに戻し、エルネストの目を見る。
「結果的にね、その人を娶らなくてよかったと思ってるんだ。今は。
三人の妻達は、みな素晴らしい女性だし、子供達もみな王家に相応しい子に育ってくれた。
国王になる運命を棄てて、望む女性の手を力ずくでひこうとしなくてよかったと心から思っているんだ。
勿論、君にその考えを押しつけるつもりはないよ。ただ、その道だけを見ないで、その先にあるものも見て欲しい」
「その道の先にあるもの」
システィアーナの手をとった時、取らなかった時。その先に何があるのか。何が失われるのか。
「幸い、僕には、王として統治する能力はそれなりにあった訳だけれども、それだって生まれつき持っていた訳じゃなくて、父の背中を見て育ち、
弟達はそれなりにいい王子だったけれど、性格や人品がよいだけでは政治は行えない。時には清濁併せ呑む事も必要となる。その時に、弟達の人の良さは妨げになった。だから、民や弟達を護るためには、僕が王になるのが必要な事で」
──仕方のないことだった。
なぜ、親族間の婚姻が禁じられていたのかは、歴史を調べて理解した。
血が濃いと、精神や身体に欠損や障害のある子が生まれやすいこと、権力が集中することの弊害。
感情だけで、配偶者を決める事の愚かさ。
王妃の実家が外戚として権威をふり翳し乱れた政治は、立て直すのに数代かかったという。
エルティーネの父ドゥウェルヴィア公爵は外交と自領の経済に大きな影響力を持ち、決して私欲で動く人物ではなかったが、本人は公明正大であっても、取り巻く環境がそうとは限らない。
つけいる隙を与えてはいけないのだ。
「わたしは、民と家族を護るために、愛に生きる訳にはいかなかった」
再び紅茶で乾いた唇と喉を潤したエスタヴィオは、エルネストに一枚の厚い羊皮紙を差し出した。
「我が娘、ユーフェミアと、アルメルティア。それにエステール公爵家は馴染みだね? 君の母君の実家だし。
先程女公爵家を興すと言っていた第一王女ユーフェミアと、隣国リンドバルド第二王女を母にもつアルメルティア。
このふたりは以前から、降嫁するならエルネストがいいと言っていたのだという。
「さっきの、感情で伴侶を選ぶべきではないという発言に反しているようだけどね、君の父親は、公爵だけど交易品の開発や商談交渉が楽しくて、現場から離れたくないから昇進しないという変わり者で、母親は女王ブランカの王妹女公爵家の血筋で王族だけど、ユーフェミアから見て六等親族以下の傍系で、権力や富に拘らない優秀な社交家だ。
その両親の教育がよかったのだろうし、王宮でフレキシヴァルトと共に学ばせたのもよかったのだろう。わたしは、君なら構わないと思っているよ」
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