第22話 花言葉に夢を


 さすがに量にはこまったものの、見舞いに綺麗な花を贈られて、嫌な気になる女性は少ないだろう。


「皆さん、お姉さまのイメージで送ってくださってるのよね?」

「大半がピンク系ですしね。きっとそうでしょうね」


 香水や化粧水などの香料になると好まないのだが、生花の薔薇は、色も形も、香りも好きだった。


「こんなにあったらさすがに違うと思うけれど、お姉さまご存知? 100本や365本贈られると、100%の愛や、毎日恋してますってプロポーズの意味になるのよ」

「リーナ、これは、お見舞いの花よ? 癒やしにってメッセージがついてるわ」

「999本だと、何度生まれ変わっても愛してます、ですって」


 夢見るお年頃のリーナは、大量の花に浮かれているが、咎めるのも可哀想で、返事に困ったシスティアーナは、花の本数から話題を変えようとする。


「これだけあると、数えられないわね。数よりも、花言葉だって可愛らしいのがあるんじゃないかしら? 深紅や緋色じゃなくてピンクや黄色ですもの」

「んーとね」


 リーナは花言葉や花に託す詩や想いを綴った本のページをめくっていく。


「ピンクの薔薇は『可愛い人』白は『清純』黄色は『友情』ですって!

 ラナンキュラスの白は『純潔』きゃ~っ ピンクは『飾らない美しさ』に、かすみ草は『幸福』『清らかな心』さすが、花束の定番だわ。殿下はお姉さまに友情をいだかれて、清らかで可愛らしい人だと思ってくださってるのね」


 ぽわーと何か想像をしながら、本を抱きしめて身を捩るリーナ。


 カルルデュワの贈った薔薇に、紅色が入っていたのは、システィアーナ自身は、瞳の色に合わせたと思っている。

 が、リーナは花言葉の『死ぬほど焦がれています』だとか、オレンジは『魅惑』、ガーベラのピンクが『崇高美』白が『希望』、チューリップはピンクが『愛の芽生え』『誠実な愛』赤は『真実の愛』だと、大興奮した。


「花を贈るのはいい意味が多いようにわざと考えられているのよ。昔の人はロマンチストだったのね。リーナが期待するような深い意味はないでしょう」


 リーナへの花束に、リーナの好きなチューリップやガーベラが多く入っていて、色も赤やピンクだけではなく、黄色も白も入っている。

 チューリップの黄色は『望みのない恋』白は『失われた愛』、赤のガーベラは『燃える神秘の愛』だがオレンジは『冒険心』だ。

 花言葉に拘るなら、かすみ草は定番だが、チューリップは赤やピンクしか入れてはいけなくなってしまう。


「まあ、そうよね⋯⋯ でも、そう思っておいた方が、ロマンチックで素敵じゃない?」


 ──三人とも、恋人や婚約者にするのには、無理があるのに?


 王太子が婿入りは有り得ない。


 外交の主要人物であるカルルデュワが引退して、領地管理補佐をしてくれるとは思えない。


 エルネストは次男で騎士見習いで、一見なんとかなりそうではあるが、何代にもわたって王家の血を入れた家系で、王弟の孫の自分には近すぎるヽヽヽヽ


 システィアーナは、リーナから隠すようにして、ため息をついた。




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