第18話 釣り書きの後始末
夜、ロイエルドの帰宅と共に、エルネストが顔を出した。
自室でゆっくりしてだいぶ良くなっていたシスティアーナは、母や妹と共にエントランスに立ち、当主を迎える。
「シス。起きてていいのかい?」
「ええ。身体を温めて休んだら、だいぶよくなったみたいなの」
「シス。午後の語学の時間に、体調を崩したと聞いたが⋯⋯」
「お父さま。ご心配おかけいたしまして申し訳ありません。昨夜遅くまで起きていたので、身体を冷やしたせいだと思いますの。温めたら良くなりましたわ」
「何をしていたんだい?」
応える気のない釣り書きに、一件一件断りの返事をしていたとは言いづらい。
ロイエルドはあの釣り書きの山に、ウンザリしていたからだ。
「恐れながら」
「メリア。何か知っているのかい?」
「メリア」
システィアーナは言わないで欲しいと視線で訴えたが、流される。
「お嬢さまは、あの山のような釣り書きおひとつごとに、お断りのお手紙をお書きに⋯⋯」
「システィアーナ」
「はい」
「出しなさい」
ロイエルドは、優しい父親の顔で愛称で呼ぶのをやめ、厳しい当主の顔で、ファーストネームを呼んだ。
「残りの釣り書きすべて出しなさい」
「⋯⋯はい」
システィアーナが了承したので、直ぐさま、部屋付きの侍女が二人で分けて持ってくる。貴族の使う厚手の上質紙や羊皮紙は、纏まるとずっしりと重いのだ。
「これは⋯⋯ 半分はもう返事を出したのかね?」
「はい。公爵家や侯爵家の物から順に返して行っているところでした」
「⋯⋯子爵家以下の物しか残ってないのだね?」
「はい」
システィアーナの返事を確認したロイエルドは、その釣り書きの山を執事の一人に手渡し、「すべて処分するように」と命じた。
「お父さま!?」
「安心しなさい。明日、朝議の最後に、全貴族に向けて、断りを入れる。それで終わりにしなさい」
貴族院と各省の高官を集めた御前朝議の場で、そんな個人的な発表をしていいものなのか。
職権乱用なのでは? そうは思ったが、言い出せなかった。
「下位貴族の顔だけ放蕩息子を婿に受け入れる気はないよ。伯爵家ならまあ、あれだけど、今のところ、話を聞いてもいいかなと思える物はなかったからね。
⋯⋯シスに見せたのは、単に君はこんなにモテるんだよ、という見せびらかしだけだったんだ。生真面目に断りの文なんか書くことなかったのに」
体調を崩してまでせっせと断りの文を書いたのは、無駄な労力だったのか⋯⋯
気が抜けたら、再び目の前が暗くなるような気がした。
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