第2話 国王の発する詔勅──王命



「やっと?」


「ええ、やっと。子供の頃引き合わされ、13歳で寄り添うことを諦めてから、更に三年、無意味に続いた婚約関係が解消されるかもしれないという、喜びにも似た感慨がありますわ」

「シスは、我慢しすぎよ! もっと早く、婚約解消しても良かったと思うわ」

「ふふふ。それは出来ないのですよ、アルメルティア王女殿下」


「シス? 教育係もいない、父様や母様、他の貴族達もいない私達だけの時は、敬称はナシの約束よ」

「そうでしたわね、失礼しますわ、メルティ」

「そうよ、メルティって呼んでちょうだい? で、どうして婚約解消出来ないの? 大体あっちが契約不履行でしょう?」



 アルメルティア王女は14歳。まだ恋に夢を見る年頃だろう。



「貴族の婚姻は、利益と利権、政治とパワーバランスが大事ですのよ。そして、血筋を絶やさない為、家同士の契約でもありますの」


「それにね、メルティ。シスとあの馬鹿オルギュストの婚約は、お祖父様──先代陛下の下された王命なのよ」

「お祖父様の?」


 ユーフェミア王女は、システィアーナと同じように資料を広げ、教師を待ちながら、異母姉妹のアルメルティア王女に説明する。



「シスのお父様は侯爵。王宮でも重要なポスト、宰相よ。常に中立で公平であらねばならないお方なの」

「中立で公平」

「宰相とは、お父様──国王陛下を補佐し、政治を取り纏める王に次ぐ政治の要。その方が、○○派とか、△△主義とかって、思う方向に政治を振り回すことは許されないでしょう?」

「それはそうね」


「だから、宰相である侯爵が、過ぎた特権を持たないよう、自身の妻も誰でも自由には出来ないし、その子供が婚姻する相手も、同じ派閥の家系ばかりで偏るわけにもいかなくて、時の陛下がそれぞれの家系の力関係が平等になるように、縁を結ばせるのよ」


「その相手が嫌いな人だったら?」

「⋯⋯悲しいけれど、どこかで折り合いをつけて、夫婦としてやっていくしかないわ」

「え~、や~だ~。嫌いな人とは一緒に暮らせないわ」


「⋯⋯そうね。きっと、オルギュスト様は、わたくしのことはお嫌いだったのでしょうね」


「シス。貴女は素敵な女性よ。あんなにないがしろにされていいいわれはなくてよ」

「ありがとうございます。ユーフェミア王女殿下」



 確かに、意に染ぬ婚姻契約ではあっても、蔑ろにしたり、恥をかかせていい理由にはならないだろう。


 それでもやってしまうほど嫌われる、理由が解らなかった。






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