第22話
翌日。
朝食を食べて、町を出た。
エンデまではぶっ通しで飛んでまた半日。
最前線防衛都市ということもあり、エンデの街は頑強な作りの防壁に囲まれていた。
見上げると首が痛くなる程の高さがあるエンデ。
どれくらいの年月をかけたらこれほどの防壁が出来るのだろう。
門番にギルドカードを見せて中へ入る。
この時期エンデに来る冒険者は少なくなって来ているのか、門番の人に歓迎された。
魔族の影がちらつく中、冒険者は巻き込まれるのを嫌がって避難したのかもな。
かなりの厚さのある防壁を抜け、街へと出る。
街の景観自体は普通の街と一緒だが、建物の一軒一軒が頑強に作られているようで少し雰囲気が冷たく感じる。
いつも通り昼食を食べがてらギルドで情報収集を行うことにする。
昼食は一角兎――ホーンラビットのシチューだ。
味付けは少々濃いめだが白パンをつけながら食べるとその濃さも丁度よくなり、とても美味しい。
情報の方だが、エンデに来ている勇者パーティーは四人組。
今は魔族領の警戒に兵士とあたっているようで、ギルドの方には来ていないみたいだ。
魔族の目撃情報が増えていることから、勇者を攻め込ませることはせずに魔物の襲撃に備えさせているようだ。
ギルド側も冒険者に通達しているようで、今は依頼をさせずに備えさせているらしい。
特に高ランク冒険者は定期的な調査をさせて即応出来るように準備しているとのこと。
これは俺もその調査に加えられそうだな。めんどくさそう。
「お」
だが、しばらくは大丈夫そうだ。
定期調査組が戻って来たようで、今日の調査はこれで終わりっぽい。
さて、食べ終わったことだし勇者どもの顔でも拝みに行くとしようか。
***
魔族領側の防壁門。
その防壁門の上に勇者たちはいた。
魔族領の方向にある森を険しい顔で見つめていた。
稼ぎはいい方なのか、それとも王国からの支援金のおかげなのか。どちらなのかはわからないが、かなりいい装備を身に着けていた。
防壁の各所に建てられている櫓の影に潜みながら彼らを確認するが、後ろ姿しか見えず顔が確認できない。
「ホントに魔物が来るのかよ? とっとと攻め込んだ方が早くないか?」
「そう言うなよ三浜。街の近くを魔族が徘徊してんだ。下手に攻め込んだら返り討ちに合うぜ?」
「そうそう。薫の言うとおりだよ。攻め込みたいなら樹だけで行きなよ」
「なんでもいいけどー。あたしのことはちゃんと守ってよね」
男三、女一。
そして薫、樹と聞いてこの四人が誰かはわかった。
戦いたくてうずうずしているのが
三浜を止めたのが
赤島に同意したのが
そして、このパーティーの紅一点である
この四人は地球にいたころも仲が良く、常に一緒にいた。
噂では三浜、赤島、静川の三人とも鮎川の恋人だという話もあった。
彼らはその噂に否定するでもなく肯定するでもなくいたため、鮎川は三人と付き合っていると決めつけられ、鮎川は女子に嫌われていたのを覚えている。
男三人は割と顔が良いので独占している鮎川への嫉妬からだろうな。
装備からするに三浜が大剣士、赤島が騎士、静川が魔法使い、鮎川が支援系魔法使いだろう。
またSTRが上がってしまうな。
さて、ここでサッと殺ってしまってもいいのだが、如何せん人の目が多すぎる。
しばらく様子見しよう。
次に向かうのは魔族領の森。
魔族の目撃情報が増えているのであれば、確認しておきたい。
俺が見たことある魔族はあの中二剣を持っていた魔族だけなため、他の魔族も確認しておきたいのだ。と言うか好奇心。
普通に門を通ると止められる可能性があるため、影を辿って防壁から飛び降りて森の方へと向かう。
「ベルゼいるか?」
「おお、いるぜ?」
「魔族や魔物の大群がいそうな方向わかるか?」
「おう。あっちだ」
悪魔に言うのは失礼だろうが、便利な奴だ。
「気配や魔力探知って俺でも出来るのか?」
「出来るんじゃないか? 魔法が使えるんだしな。意識すれば魔力の流れや相手の魔力とか見れると思うぜ?」
「ふむ」
一度足を止めて目を瞑る。
自分の内に宿る魔力は魔法を使っているためわかりやすい。
では、それを今度は外に向けてみる。
内に宿る魔力に似た物を外で探すとすぐ見つかった。
薄い霧が身体の周りを揺らめくのを感じ、更に集中すると木々や草花、魔物の魔力を感じ取ることが出来た。
なんと言えばいいか。
感覚で言うのであればナイトスコープを通してみているような感じだ。
目は開かれていないが、生き物や植物に宿った魔力で輪郭がはっきりと感じ取れる。
このまま歩いても問題ないくらいだ。
試しに歩いてい見ることにした。
恐る恐る。探る探る。
「おわっ!?」
「クハハ!」
何かに躓きこけてしまう。
目を開いてみると、どうやら倒木に足を取られてしまったらしい。
なるほど。生きている物は知覚できるが、死んでしまった物はわからないみたいだ。
「慣れれば集中せずに知覚できるようになるぜ? にしても綺麗にこけたな」
「うるせぇ」
肩を震わせるベルゼを置いて、ベルゼが教えてくれた方向へと歩いていく。
先ほどの感覚を頼りに目を開けながら魔力探知を使うのも忘れない。
何事も練習あるのみだ。
一時間ほど森の中を歩き続けると、魔力探知に大きな魔力の塊が引っ掛かった。
その場所に行き、木陰から確認する。
「おお、おお。大量だなこりゃ」
隣にいるベルゼはその魔力の発されている場所を見て「ククク」と笑いを溢した。
ベルゼが言った大量と言う言葉の通り、そこには数えきれないほどの魔物が蠢いていた。
ファンタジーではお馴染みのゴブリンやオーク、サイクロプスにオーガ、果てには数体のベヒモスの姿さえある。
ドラゴンがいないだけマシだろうか?
万は越えるであろう数の大半はゴブリンとオークなのが幸いだな。
魔力探知を再度使うと、異形の生物の中に三つほど人型の魔力が存在した。
影を経由してその人型がいる方に向かう。
青黒い肌、頭から生える角を持つ三人組。
ガタイのいい男が一人、妖美な女性が一人、子供みたいな見た目のが一人。
子供っぽいのは男だろうか?
まあ、魔族で間違いないようだ。
「決行は明日の夜、日付が変わったらだ」
「勇者ちゃん達も来てるらしいわねぇ。貰っていいかしら?」
「協力者からの話では二パーティーが要請に応じたらしいが、まだ一パーティーがたどり着いていないっぽいね」
夜襲を行うみたいだ。まあ、夜目の効く魔物を使うなら妥当か。
さて、戻ろう。
魔族も確認できたし、何より腹が減ってきた。
影を通ってエンデの内側に戻り、人気のない場所で影から出る。
「飯食いに行くか」
「ククク。いいの見つけといたぜ?」
「さすがベルゼだ」
もし、人間の味方であろうとするのであれば、この状況で人を減らすは拙いだろう。
だが人間の味方ではない。かと言って魔族の味方でもない俺としては、この状況を使わせて貰うことにした。
せいぜい魔族には頑張ってもらうことにしよう。
俺らが食事するのだから。攻め落とせないなんてことは許されないぞ?
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