第8話

 街に来てからは最初の食事以外特に面白いこともなく、討伐依頼を淡々とこなして金稼ぎ。魔物で食事はしているものの、そろそろベルゼが人間食いたいと喚きそうだ。

 手ごろな冒険者でも殺して食うのもありだろう。


「ねぇあんた」


 そんなことを考えながらギルドの食堂で普通の食事をしていると声をかけられた。


「なにか?」


 声の方を向くとそこには美味そ――白いローブを着た魔法使い風の少女がいた。

 年齢としては俺と同じくらいだろうか?


「聞いたわよ? 剣も魔法も巧みに使う新人がいるって」

「人違いだよ。他あたりな」


 軽くあしらい食事を続けようとすると、視界にベルゼが入る。

 彼は涎を袖口で拭っているところだった。

 どうやら彼女からは美味そうな匂いがするのだろう。


「……はぁ。んで? それが俺だったらどうだってんだ?」


 まあ、ちょうど普通の食事にも飽きてきたしな。


「ふふっ。ちょっとダンジョン攻略を手伝ってほしいのよ。うちのパーティーは前衛一人に後衛三人のパーティーなんだけど、ちょっと前衛の子が怪我してしちゃってね。前衛職を探してた所なのよ」

「なるほど? それでなんで俺を?」

「うーん。一番の理由は年が近いからかしらね? あとは年の割に落ち着いてるからね」


 判断基準よ。


「理由はわかった。特にすることもないから同行するのは別に構わない」

「ほんと!?」

「ああ」

「ありがとう! 残りの二人も連れてくるわね!」


 少女は嬉しそうに他のテーブルにいた仲間の元へと向かった。

 しばらくして、少女は仲間の二人を連れて俺のテーブルへと合流。

 他の二人も女の子だ。


「まずは自己紹介ね。私はイリよ。支援魔法が得意で回復なら任せなさい!」


 と、俺に声をかけてきた少女。


「私はリーナです。見ての通りエルフです。弓と風魔法が得意なので、援護は任せてください」


 と、金髪碧眼で耳の尖った少女。……少女なのだろうか?

 イメージ通りのエルフだ。


「あたしはシェリー! 得意魔法は炎だよ! 攻撃なら任せて!」


 と、三人目の赤い髪が特徴的な少女。

 三人とも魔法が使えるのか。


「クハー! 魔法使い二人にエルフ! エルフだってよぉ!」


 この三人には見えていないが、彼女らの後ろでクルクル踊っているベルゼ。

 笑いそうになるからやめてくれ。

 ベルゼがテンション上がるってことは相当エルフは格別なのだろうな。


「このパーティーは女の子だけのパーティーなのか?」

「ええ。女子だけで構成してるパーティーよ」

「ふむ。でもいいのか? そんなパーティーに男なんかいれて」


 余計な事を言うなと言わんばかりに睨みつけてくるベルゼを軽く無視して少女たちを見る。


「そうね。最初は女の子に頼もうかと思ってたんだけど、大体の子が後衛なのよね。しかもパーティー入ってるし。それでソロで活動してる人を探してたんだけど、このギルドに所属してるソロ冒険者ってあなたしかいないのよ」


 説明が長い。だが、まあわかった。


「それで仕方なくって感じか。前衛の子には伝えてあるのか?」

「ええ。了承済みよ。このあと予定はあるかしら?」

「とくには」

「ならちょっと付き合って。宿にいる子に紹介するわ」


 ふむ。

 ちょうどいい。


「わかった」


 頷いた俺は、冷めてしまった料理をとっとと食べ終え、彼女たちの仲間がいる宿へと案内してもらうことになった。

 ギルドから少し離れた所にある小綺麗な外装の建物。ここが彼女たちが拠点としている宿とのこと。

 中に入り、女将さんに挨拶をしたあと、前衛の子が休んでいるという部屋へと案内された。


「入るわよー」


 ノックをしてノータイムで入るイリ。


「ああ、もう帰って来たんだね」


 おっと、何やら聞いたことのある声だ。

 俺は咄嗟に認識疎外の魔法を使う。無属性で何かと役に立つ魔法だとベルゼに覚えさせられた魔法だ。

 この魔法は認識にズレを生じさせることが出来る魔法で、一番わかりやすい例で言うと、そこにいるがそこにいるとは認識できないといった使い方も出来る。

 今回は顔に魔法をかけたので俺の顔だが俺だとわからないように疎外した。


「例の子連れてきたの。一時的とはいえパーティーを組むから挨拶でもさせようってね」


 イリの話している相手は、俺が予想した通りの人物だった。


「そうなんだね。私はアイカ。よろしくね。えーと……」


 アイカと名乗る黒髪ポニテの少女。

 その顔は召喚される前に教室でよく見た顔だ。

 漆島愛花うるしまあいか。俺と共に召喚された元クラスメイトの一人だ。俺の中で静かに憎しみの火が灯るのを感じる。


「俺はリンド。今回イリ達と一緒にダンジョンに潜ることになった。よろしく」


 リンドウと名乗ってしまうとバレる可能性があるためリンドと短く名乗る。


「リンド君だね。噂は聞いているよ。私の代わりに彼女たちをお願いするね」


 柔和な笑みを浮かべる漆島。

 あざ笑っていた彼女とは思えないその表情に憎しみの火が燃え上がっていく。

 もうこのまま殺してしまってもいいんじゃないかとすら思う。だが、ダメだ。ここでは騒ぎになってしまう。理性で炎をコントロールし、外に漏れださないよう必死に耐える。


「なんで怪我したんだ?」

「それは――」

「アイカは私をかばってくれたの。攻撃魔法の詠唱中を狙われちゃって……」


 漆島が答えようとしたのをシェリーが遮り、理由を教えてくれた。

 なるほどなぁ。友達思いの漆島っぽい理由だこと。


「幸い傷自体は酷くないから、しばらく安静にしていれば治るって言われたよ」

「そりゃよかった」


 弱っててくれてな。


「ダンジョンに潜るのは明日でいいのか?」


 俺は日程をイリに聞く。


「ええ。明日のつもりよ」

「あいよ。なら俺は準備するために一度宿に戻るわ」

「わかったわ。明日はよろしくね」

「イリ達をよろしく」

「ああ」


 俺はイリ達と別れ、宿屋を出る。

 久々に見たクラスメイトの顔。懐かしさを感じるよりもイラつき、憎悪は勝る。

 正直言ってしまえばよく耐えられたと自画自賛したい。

 漆島は仲のいい女子グループとよくつるんでいた。こちらに召喚されてからもその形は変わらず、俺が生贄にされたときも彼女らは楽しそうに笑っていた。


「なあ、リンドウ」

「少し黙っていてくれ」

「……あいよ」


 俺は大通りから外れ、路地へと入る。


「恵んで……恵んでくれぇ……」


 少し奥まで行くと一人の浮浪者が近寄って来た。


「うるせぇ」


 その浮浪者の心臓を抉り食う。

 大多数いる浮浪者を数人殺した程度で騒がれることはないだろう。


「ひぃ…!?」


 今の光景を見られたか。

 腰を抜かした青年に近寄り抉る。


「ベルゼ」

「ああ? おっと!」


 ベルゼへ心臓を投げると、大口で心臓を丸ごと口でキャッチした。


「メインディッシュは決まった。不味いもん食って肥えた味覚を落としておくぞ」

「あの部屋にいた嬢ちゃんか?」

「ああ、アイツだ」

「そりゃ楽しみだぁ」


 ああ、とても楽しみだ。


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