第6話 日本の追憶 残る者達
助けて貰った事には感謝しているが想定外の足止めで少し苛立っていた。私達は何も悪いことをしていない。ただ港に行きたいだけだ。
「どういう事ですか?反対者達はもう捕まったじゃないですか?」
ロボットのスピーカーを借りた唐突な話に父親は混乱する。
『今からあなたのスマホに一本の電話がきます。それに出て下さい』
ふと振り向くと危機は去ったはずなのに妻も娘もとても不安そうな顔をしていた。
(大丈夫、大丈夫だから)
電話がかかって来た。すぐ側には戦闘傀儡が直立不動の姿勢で立っている。
「もしもし、あのすいません。出来ればロボットを遠ざけて欲しいんですが。妻と娘が怖がってるんです」
『それは大変失礼しました。すぐに下げさせます』
電話の男に言うとすぐに離れていった。つまりいつでも動かせると言うことだ。
「ありがとうございます」
『いえ、早速ですがこちらは宇宙航空開発局です。あなたに折り入ってお願いがあるので、こうしてお電話かけさせていただきました』
男からの伝えられた内容はお願いなどではなく命令だった。男によると現在エクソダス計画以外に極秘に別のプロジェクトが動いているらしい。それに私も参加しろと言う者だった。大学で教育学を博士まで修めたそのスキルが必要らしい。詳細はまだ教えられないとも。ただ男は言った。
『我々と一緒に学校を作って欲しいのです』
状況的に断ることは難しい。ただいくらなんでも横暴にすぎるとは思った。
『輸送機を送っているのでそれに乗って下さい。空路で直接脱出港にお連れします。まだ3日ほど走り続ける必要がありますよね。空路なら数時間ですよ』
それから少しして大型のヘリコプターがやってきた。驚いたのは人が操縦している事だ。機内にも傀儡に混じって人間の搭乗員がいる。
「大丈夫だから、保護してくれるらしい。ちょっとお父さんはまだ電話があるからね」
妻と娘を連れて機内に入る。2人は搭乗員からおにぎりとお茶を貰っていた。一息ついて欲しい。確かにあの車で旅を続けるよりかは2人にとって良いかも知れない。
『もちろん相応の条件を用意させて頂きます。韓国への移住となってますが、今からでもアメリカ 欧州 オーストリア等をご紹介できます。加えて現地通貨と職を斡旋しましょう。どうですか?』
「妻と娘にはもう韓国に行くと言ってある。だから金を積み増して欲しい。それで私は何をすれば良い?」
『エクソダス計画完了後に数年の間、我々と日本に残って学校の先生をして欲しいのです』
「分かった、受けよう。あと一つ、あの反対者達に良い移住先を見つけてやって欲しい……」
ヘリは脱出港へと向かって飛んでいく。
人々が脱出するなか日本に残った技術者、科学者、医師、看護師そして教員たちがいた。彼らの使命は『学校』にあった。日本最期の学校に。
___________
少年と赤ちゃんは山道をぐんぐん走っていく。輸送船と一緒に食料が吹っ飛んでしまったからご飯を求めて移動中だ。
「これからどこ行くと思う?」
「バブ!」
「えっとね、こう言う時の為に保存食とかがありそうな場所を調べておいたんだ。まぁ輸送船が爆発炎上する事は想定外だったけどね笑」
「あうあう〜」
少年のスマホに幾つかの赤い点が表示されている。かつての災害備蓄庫や物流拠点それに自衛隊の拠点なんかだ。調べておいてよかった。今向かってるのは少し変わった施設みたいだけど。赤い点は海のど真ん中にある。
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