第20話 職業レベルとは
俺らは剣児の故郷、東通村を目指し歩いている。
少し前に初のレベルアップを経験し、人間界のその超理不尽な仕組みを痛感させられた。
「ゆうな、職業レベルってどうやったら上がるんだ?」
「それは通常のレベルアップと同じく、魔物を倒した経験値が溜まると上がっていきますよ」
「普通のレベルは上がったけど職業レベルってのは上がりにくいもんなのか?」
「そうですよ。私の場合、最初に職業レベルが上がるのはレベル4くらいからかな。私も今レベル3だけど職業レベルは1ですし」
確かに前に見たゆうなの冒険者情報では職業レベルが1だったな。
「そうか。じゃあこれから先、スライムを狩りまくろう。剣児も一撃で倒せるみたいだし、すぐに普通のレベル職業レベルも上がるんじゃないか?」
「それだとあまりオススメできませんね」
「どういうことだ?」
「レベルが上がるにつれ、次に上がるための必要経験値が増えてくるんです」
レベルというのはなかなか複雑だな。
ただ闇雲に弱い魔物だけ倒しても強くなれないということか?
「じゃあ次はスライム2匹倒しただけじゃレベルが上がらないのか?」
「そうですね。スライムだけだったら次は10匹くらいじゃないですかね?」
め、面倒くさい……!
レベル3に上げるだけでスライム10匹だと?
レベルが上がるにつれて上がりにくくなってくるというからには、これから先何十万匹もの魔物を倒さなければならないのか!?
俺がこのレベルという仕組みを作った神ならば、レベルに応じて、数を倒さなくとも強い魔物数匹を倒すだけでレベルが上がるような仕組みを作りだす。
んー、我ながら天才的な発想だ。
「おいおい、それだとレベル20とか30になったら魔物を何十万と倒さないと次のレベルにいけないんじゃないか?魔王に挑む前に精神的にくるものがあるな」
俺の発言がおかしかったのかゆうなが少し笑った。
剣児はというと、一生懸命索敵をしているので俺らの会話をまったく聞いていない様子だ。
「ふふっ、確かにそれは精神的にキツいですね。でもそんなことはないですよ。なぜなら、魔物ごとに経験値が決まっていて、魔物の強さに応じて経験値が多くなっていくんです。だからスライム10匹よりも、ちょっと強い魔物1匹のほうが経験値が高いこともあるんですよ」
なんということだ。
俺が望むような仕組みがもうそこにあったとは。
「魔物だぁー!」
剣児が叫び、指差す方向の先には黒い犬っころが1匹いた。
剣児の声で俺達に気付いたようで、遠くから俺達に向かい走ってきた。
剣児とゆうなは剣を構え応戦体勢に入った。
俺はというと何か見たことある犬だなーと思い、目を凝らして見ると俺がタンナーブに行くときにじゃれていた犬だと気付いた。
「あれは【あばれウルフ】ね。さっきのスライムより強いよ。私が引き付けるから二人は後ろから攻撃を仕掛けて!さぁ、こっちに来なさいあばれウルフ!」
鬼気迫るといった表情でゆうなは俺達に指示を出した。
やはり勇者というべきか、ゆうなが身をもって弱い俺達の前に立つ姿に僅かながら感心した。
しかし剣児はともかく、俺はこんな犬に負ける道理がない。
あばれウルフがゆうなの挑発に乗り、彼女に向かい一直線で走ってくる。
そして爪を立てゆうなに襲いかかる。
「ガルルルル!」
ワンワン吠える犬とは違い、攻撃的な咆哮をしつつ攻撃を仕掛けてくるが、それをゆうなは剣で防ぎ、無防備な腹に蹴りを入れた。
あばれウルフが体勢を崩したその隙に、剣児が後ろから一撃を見舞う。
「おりゃあぁぁ!」
見事斬りつけることに成功し、斬られたことで背中から血を流したあばれウルフは威嚇をしながら一旦離れた。
剣児はスライムの戦闘とは違い、一撃で倒せなかったあばれウルフに少し戸惑っている様子だった。
俺はその一連の様子を木の枝片手にボケーっと見ていた。
「出野さん、何してるんですか!攻撃に参加してください!あばれウルフに攻撃が当たると出野さんにも経験値が入ります!怖いのは分かりますが、どうにかして一撃を食らわしてください!」
ほう、面白い、そういう仕組みか。
経験値を分けあうことができるんだな。
しかし俺は攻撃力が異常に高いので、下手な攻撃をしてしまうと一瞬で倒してしまい能力値が高いことがバレてしまう。
いやー、でも木の枝を軽く当てるくらいだったら大丈夫だよな?
俺は少し距離を取り威嚇をしているあばれウルフに近付くと、あばれウルフは噛みつき攻撃を仕掛けてきた。
俺はそれを体を反らして躱し、足元をすくうようなイメージで、あばれウルフの足に木の枝をそっと当てて軽く押し上げた。
「えい」
足を押されたあばれウルフは、地と平行に物凄い勢いで回転しそのまま着地した。
力の加減が分からん。
だいぶ回転したみたいだけど、こいつ大丈夫か?
「出野さんの攻撃を回転して躱した!?あの身のこなし、相当ヤバい!」
「出野さん、早ぐ離れだほうがいいど!」
ゆうなはあばれウルフが俺の攻撃を体を捻って躱したと思いこんでいた。
あばれウルフは回転により平衡感覚を失い、案の定フラついている。
そして想像を超えた回転力により、体毛が逆立ちすごいことになっていた。
剣児の頭並みにボサボサになっている。
最初に見たあばれウルフの面影は微塵も感じられない。
「今よ!はぁっ!」
「おりゃあぁぁ!」
ゆうなと剣児は二人同時に斬りかかった。
血飛沫を上げ、あばれウルフは息絶えた。
「ふぅー。やはりあばれウルフともなると一撃では倒せないですね。私は今のでレベルが上がりました!」
「おめでとー!おらはまだレベルは上がってねぇ。いやぁ、おら一撃で倒せるがど思ったけど、甘がったな」
ゆうなは今の戦闘でレベルが上がったようで、嬉しそうに俺達に教えてくれた。
「で・す・の・さん!」
「おー、どうかしたか?あー、そうか!言い忘れてた。レベルアップおめでとう」
「そういうことじゃありませんよ!私達仲間なんですから、出野さんもきちんと戦闘に参加してください!怖いかもしれませんが、危なくなったらちゃんと私が守りますから!」
俺がボケーっとしていたことに怒っていた。
俺が魔王の時は、配下の戦闘に割って入ることなど御法度であった。
人間との条約があったので、そもそも戦闘自体は数えるほどしかしていなかったが、配下の手柄を横取りすることは内乱の火種に成りうる。
その癖が抜けなかったのか、俺は最初手を出さずにいたというわけだ。
しかし人間にはその魔物の常識を知る由もないし、俺が魔物だとも知らないからそりゃあ怒るわな。
「すまん。次からはちゃんと参加する」
俺は素直に謝った。
「もう、頼みましたよ」
ゆうなはぷんぷんしながら俺に言った。
しかし、参加すると言ってもやり方考えないとなー。
強すぎるからダメージを与えないように、尚且つ攻撃に見えるようにか……、えっ、無理じゃね?
そんな俺の心の葛藤を知るはずもないゆうなは、自身の冒険者の書に手を当てていた。
写し出される冒険者情報に、次第に目が大きくなっていった。
「やったー!やっぱり職業レベルも上がった!しかも魔法も覚えてるー!ほら見て見てー!」
先程まで怒っていたのが嘘かのように笑顔になったゆうなは、俺達に自身の能力値を見せてきた。
――――――――――――
名前:小笠原 ゆうな(年齢17歳 性別 女)
レベル:4
職業:勇者
職業レベル:2
HP:489/489
MP:51/51
物理攻撃力:28
物理防御力:30
魔法攻撃力:21
魔法防御力:30
素早さ:25
運:8
使用可能魔法一覧
火属性:チャッカ(小)
使用可能特技一覧
―
――――――――――――
「やったやったー!」
「えっ!?ゆうな魔法使えんの!?すんげぇ!やんべー!」
ゆうなは初の魔法取得に興奮している様子で、跳び跳ねて喜んでいた。
なぜか剣児はそれ以上に興奮しているようで、地に背中を擦り付けていた。
「俺もレベル4になったら職業レベルが上がるのかー?」
俺は気になることを聞いた。
「職業レベルも経験値が溜まると上がりますが、どれくらいで上がるかは各職業によってバラバラです。勇者は特に上がりにくいとされていますがこれも人それぞれですね。出野さんは特別職なのでなんとも言えませんが、剣児君はもしかしたら個人レベルが3になったら職業レベルも2に上がるかもしれませんよ」
「おー、おらも早く魔法どが特技どか覚えてぇじゃ!」
剣児は次で職業レベルが上がるかもと示唆され、その気になって剣を振り回したり魔法を放つような仕草をしていた。
そんな彼を横目に、俺は質問を続ける。
「ちなみに魔法や特技を覚える時も、なんか感覚で分かったりするのか?」
「んー、私の場合何となく分かりました。記憶の一部が戻ってくるというか、新しい記憶が刻まれるというか……。とにかく不思議な感覚ですね。さっきまでは自分が魔法を放つイメージがまったくできなかったのに、逆に今はこんな簡単なこと何でイメージできなかったんだろうと思っちゃいます」
魔法や特技を習得する感覚……か。
俺にもそれはやってくるのだろうか。
それを確かめる為にも、まずは職業レベルを上げなければな。
◇◇◇◇◇◇
それから俺達は出てくるスライムやあばれウルフを倒しつつ、東通村へと進んでいった。
この辺はスライムとあばれウルフしか出ないのか危なげなく戦闘をこなしていった。
俺はその中で、魔物を倒さず経験値だけをもらうコツをつかんでいただ。
それはずばり木の枝で魔物を優しく撫でるということだ。
おそらくダメージを与えていないが、攻撃判定と当たり判定はあるので経験値が手に入るという絶妙な方法だ。
二人の目から見てこれが一番戦っているように見えるし、相手を一撃で倒さないようにするための最善策である。
俺と剣児は最初のレベルアップの後から2回レベルアップを経験したのでレベル4。
ゆうなはレベル5に上がっていた。
剣児と俺は職業レベルも2になり、剣児は【ぶつ斬り】という特技を習得し、俺は【ゴブリンパンチ】というしょうかんを習得していた。
剣児は習得して早速ぶつ斬りを連発していたが、俺はというとゴブリンパンチがどれだけの威力か底知れないので使うのを躊躇っていた。
東通村まで距離にしてあと半分ほどとなり、次第に辺りは暗くなってきた。
「この辺りで一晩寝泊まりをしましょう」
ゆうなはそう言うと、森の中の拓けた地に腰を降ろしテントを取り出し始めた。
俺は組み立てを手伝い、剣児は火をおこす為の薪拾いにいった。
ほどなくして、テントの組み立ても終わり、剣児が薪の拾い集めから戻ってきたのでそれを並べた。
「チャッカ!」
「うぉー、やべぇー!」
ゆうなが火属性魔法を唱え、薪に火がついた。
剣児は少年のような目で興奮を口にした。
「やっぱり魔法は便利ね。あっ、そうそう、寝泊まりするときですが魔物が襲ってくるかもしれないので交代制にしましょう。常に見張り番が一人いるような感じで」
「じゃあ俺が最初見張りをする。というか俺は寝ないから二人はずっと寝てていいぞ」
俺は率先して見張り番を申し出た。
理由としては寝相が悪いのもあるが冒険者の書を早くまじまじと見たいからだ。
テントの中に入っても、寝ずに過ごすつもりだ。
冒険者の書を早く見たいってのは、道中魔物が多くて見る時間がなかったのもあるが、ゆうなと剣児みたいに誰にでも見せれるわけではないのでその場でパッと冒険者情報の更新をしなかったのが大きい。
ゴブリンパンチに関しては、やはりゆうなの言っていたように、自然と俺の記憶に刻まれていた。
「じゃあ最初は出野さんで決まりー!でも出野さんもちゃんと休んでくださいね!次は私が見張りをするので、3時間後くらいに起こしてください!じゃあ私達は寝ましょ!」
「んだな!」
ゆうなと剣児は相当疲れていたのか、我先とテントの中に入っていった。
二人が寝たらゆっくりと冒険者の書を確認しよう。
俺は目の前でパチパチと音を上げながら燃える火をじっと見つめ、今日あったことを思い返した。
数分後、テントの中から二人の寝息が聞こえてきた。
俺は冒険者の書を手にし、ようやく見れるなーとワクワクしていた矢先、少し離れたところから魔物の気配を感じた。
ヤバい、早く使いたい。
ゴブリンパンチ見てみたい。
俺は人知れず、習得したゴブリンパンチを試したい衝動に駆られていた。
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