第8話 決意新たに

 関所を通過しタンナーブへ入ると、様々な露店が建ち並び人々が所狭しと行き交っていた。

 その光景を見て、俺は目をキラキラさせていた。


 俺が見たかったのはこれだよこれー!


 東通村では爺さん以外の人に会わなかったので、タンナーブの人の量に圧倒された。

 俺も皆に混じって、店に並ぶ様々な物を眺める。


「兄さん!ほらほら、買ってきなよ!」

「HPやMPの回復にはこれ!今ならおまけにもう一個つけるよ!」

「当店名物おいしいおいしい柿ピー、柿ピーはいかがっすかー?」


 あちらこちらから商売人の声が飛び交い、市場は賑わっていた。

 人々が使う俺の知らない言葉に、久しく味わっていなかった新鮮さが感じられる。


「お客さん、当店名物の柿ピーおひとついかがっすか?」


 商人に肩を叩かれ、皿に乗った何やら小さな食べ物のようなものを差し出してきた。

 人間界の食べ物に興味はあったが、別に腹は減ってないし、わざわざ爺さんから貰った貴重なお金を今すぐに使う気にもなれないので断ることにした。


「んー。いらん」

「お客さん、これお試しなのでお金は取りませんよ。食べて美味しいと思ったら買っていただければと」

「は?本当か?本当だな?食ってもお金払わなくていいんだな?俺がー、これをー、こうやって口に入れてもー、お金を取らないんだな?」

「……は、はい」


 人間界の商売の仕組みが分からないので、身ぶり手振りで必死に確認した。

 俺の豹変っぷりに、商人は驚いていた。


「んじゃ、いただきます!う、うめぇー!柿ピーうめぇー!」


 あまりの美味さについつい声を張り上げ、感動を噛み締めた。

 ガヤガヤしていたこの空間は、その声で一瞬静まりかえる。

 静けさの後、「俺もー!私もー!」なんて声が聞こえて柿ピーを売っているお店に多くの客が押し寄せた。


「ほう、これが商売か。なかなか人間もやるなー」


 俺が感心していると、先程の商人が人混みを掻き分け近付いてきた。


「ありがとな!あんたのおかげでうちは大繁盛さ!これ少ないけどお礼だ!じゃ!」


 袋いっぱいに詰まった柿ピーを俺に渡し、走って自分の店に戻っていった。

 袋に入った柿ピーを見て自然と口角が上がる。

 

「人間界の食べ物はこれほど美味いとはな、大発見だ。さっき聞こえたエイチピーやエムピーもさぞ美味いのだろう」


 柿ピーを取り出しボリボリ音を立てながら歩きだした。

 しばらくすると、鎧やローブを纏った人々が一ヶ所にわらわらと集まっているのが見えてきた。

 気になった俺はそこに近付くと、紙がびっしりと貼られた大きな掲示板があった。

 どうやらその者達はその掲示板をじっくり見ているようだ。


 掲示板を見ると、上に【求ム、魔王討伐者】とでかでかと書かれていた。

 その下には、魔法使いや剣士を募集する文言が所狭しと書かれている。


「魔王討伐?」


 ここで俺に一種の閃きが浮かぶ。


「これからはのんびり暮らすだと?まだ俺にはやることがあるだろ?」


 閃きは物語の始まりを告げた。

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