六月六日 はちじょうの除籍

 掃海屋敷の玄関前でその【艦霊ふなだま】は一人でタバコをふかしていた。

「【はちじょう】」

「おっ、久哉ひさとしか」

呼びかければ【はちじょう】は嬉しそうにこちらを見た。

「何時から?」

「んー、あとちょっと」

淡雪あわゆきとは話したか?」

「まあまあかな」

「そうか」

腕時計を見たり、足元の土を動かしたりしながら他愛のない会話をかわすうちに、ふと【はちじょう】が切なそうに目を細めてよく晴れた空を見た。

「本当はもっと、ついててやりたかった」

【はちじょう】の後継である淡雪こと【あわじ】は今年の春に就役したばかりで、経験は言うまでもなく浅い。

「後は頼んだぞ」

気にかけてやってくれと言外に【はちじょう】は俺に告げタバコを地面でもみ消す。

「もう時間だ。じゃあな【くめじま】」

「おう、おつかれ【はちじょう】」

そう言うと【はちじょう】は振り返ることなく現世へ出て行った。あの【艦霊】が再びこの【道】に足を踏み入れるときには、もう【はちじょう】ではなくなっている。旗を降ろしたただの丈喜ともきは一体どんな顔をしているのだろう。梅雨独特の重たい風が吹く。思い出話を聞いてくれる友がまた一人俺を置いて逝く。

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