第3話 薔薇の華
夕食を無事に終えたあたしは(言葉のとおりの意味だ)、浴室前の極狭なスペースで衣服を脱いでいた。
それにしても、ホントに疲れちゃう。実家を出て暮らすことを最優先にしていたから、見ず知らずのメイドさんと同居するのを気軽に承諾したけれど──まさかその相手がダークエルフで、性格も
「これからどうなっちゃうのかな、あたし……」
まだ不慣れな仕事で身も心も疲弊しきっていたうえに、帰宅後も
「うわっ、
設定温度は46℃でお願いしますって、あれほどいってあるのに。熱くて入れないよりはマシだけど、これじゃ風邪ひいちゃうよ、もう!
──ガチャ。
「……御主人サマ、失礼します」
浴室のドアを開けて入ってきたのは、銀髪を後頭部でひとつのお団子にまとめて全裸になった彼女。これは奇襲エロ攻撃じゃなくて、あたしがそう命じてあるからだ。
別にいかがわしい意味は断じてない。理由は節約のため。別々にお風呂に入ると、けっこう光熱費がかさむ。だから、種族は違えど女の子同士だし、一緒に入ってほしいとお願いしてあった。
そんな命令でも彼女はいっさい驚くこともなく、
「会社と交わした契約事項の想定内なので大丈夫です」とだけ反応をみせた。
どんな契約内容なのか少し気になるところだけれど、知ってしまうとヤバそうなことに巻き込まれてしまうんじゃないかなって、そんな怖い気持ちもあるので、踏み込んで
ちなみに彼女は、異世界にある派遣会社の新入社員さんらしく、詳しい経緯は知らないけれど、なぜか日本まで出稼ぎに来ているそうな。
「むっ? 身体を洗わずに入ったんですね……」
「あっ、その、ごめんなさい!」
「謝らなくていいんです。この家の
口ではそういってくれてるけど、
やがて無言になった彼女は、サッと湯洗いをして百均のボディタオルを膝の上で泡立てる。腕の前後運動に合わせて、メロンみたいな大きさのたわわな乳房も激しく揺れていた。
「じっと見つめて、そんなに羨ましいんですか?」
「ふぇっ?! あっ……いえ……うん、まあ、ちょっとは」
「触ってもいいんですよ」
「触りたいわけじゃ……でも、そんなエッチなことまでメイドさんはするの?」
「フフッ……御主人サマがお望みであれば」
あたしよりも遥かに大きな胸が柔軟に形を変えていくなかで、彼女は官能的で色っぽい流し目を向けてくる。
エッチなサービスまでする使用人だなんて、それじゃあまるで性奴隷じゃない──誰に向けるわけでもないけど、このときのあたしは、強い憤りを感じていた。
「さあ、御主人サマ。今度はあなたの番ですよ」
急に立ちあがった褐色の肌に、白い泡の固まりが溶けたマシュマロみたくゆるやかに時間をかけて落ちてゆく。
「あたし? きょうは、いいよ」
「一緒にシャワーを浴びたほうが節約になるのでは?」
「う、うん。そう……だね」
節約を理由に、ふたりでお風呂に入ろうと命令している手前、それをいわれては断りたくても断れない。
渋々、湯船から出てお風呂椅子にすわる。脱衣場所とおなじで浴室も極狭だから、そんなつもりはなくても身体が当たってしまった。
(やわらかっ!)
「では、失礼します」
「アッ♡」
両膝を着いた彼女が、あたしの背中を洗おうと添えてくれた左手が肩に触れたとたん、喘ぐような声が急に出てしまった。けれども彼女は、意地悪な反応もせずに黙々と背中をゴシゴシ洗いつづけてくれている。
「痛くないですか?」
「うん……大丈夫、気持ちいいです」
そう答えてから変な意味にきこえてないか恥ずかしくなっちゃったけど、気にしているのは、どうやらあたしだけのようだ。
それからお互いにこれといった会話もなく、次は背中から腕へ、ボディタオルと添えられた手が移る。
鎖骨と首を経由してもう片方の腕を洗い終えた彼女は、今度はあたしの胸を揉むようにして洗いはじめた。
「ちょ?! ちょっと待ってよ! 前は自分で洗うから、その……アッ♡ 早くっ、湯船に浸からないと身体が……ウウッ……冷め……て、風邪ひいちゃうよっ!」
「わかりました」
真顔の彼女は、顔を
ちゅぽん……。
彼女が湯船に入るとき、間近に迫るお尻の穴とアソコを思わず見ちゃったけど、いつもあたしが気になるのは、右の肩甲骨に彫られた一輪の青い
入れ墨の絵柄にはいろんな意味があるって、海外ドラマで観た記憶がある。所属する組織や得意な分野とか──まあ、全部が犯罪絡みだけどね。でも、きっとあの薔薇にもなにか意味があるんじゃないかなって、いつも見るたびとっても気になる。
(やっぱり、ダークエルフだから悪いことに関係しているのかな……)
謎が多い彼女だけど、なにかの拍子につい偏見だけで疑ってしまう。そんな失礼な自分を戒めるように、あたしは水圧を強めたシャワーを顔から浴びた。
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