復活のジョシュと俺の見た光明。

  ジョシュは翌日のホームで行われたヤーナーズ戦に7番指名打者で出場。最初の打席の時、満員の観客が立ち上がり、彼にスタンディングオベーションが送られた。薬物依存から不死鳥のごとく這い上がってきたヒーローへの賛美であった。


 いや、あそこにいたら俺絶対泣いてしまうわ。


 だが、チームは負けて8連敗。なんかこっちにまで負け癖が移りそうだ。とりあえず明日からディビジョンシリーズ。監督に呼ばれる。


「キミに初戦の先発を任せたい。」

「いや、ここはウェズに託す場面なのでは?」

俺の当然とも言うべき意見に監督は苦笑を隠さない。


「彼は呼ばれたよ。トロピカル・フィールドへね。」

ここで昇格とは裏切り者め⋯⋯。と言いたいところだが、今のチーム状況ではしょうがないわな。


「それに、そのうちキミも呼ばれそうだしね。使えるうちに使っておこうかな、と。」

だと良いですね。お互いに。


 本拠地にSWBレイダースを迎える。プレーオフはレギュラーシーズンとはまた違った雰囲気。

「なんや、まだここにおったんか?お宅の球団は若いモンに経験を与えないもんかなぁ。」

伊川さんに肩をバンバン叩かれる。 


「ほんとですよ。なぜかお呼びがかからないんですよ。」

俺がしんみり言うと

「そっかぁ。」

と頭を撫でて⋯⋯ドン!と後ろから衝撃が。


「お前か!俺のタイトルを持ち逃げしたヤツは!」

ダンガン氏だった。30本で気を抜いたお前が悪いんじゃ⋯⋯ぐはぁ。

「いやいや、お前にはやられたよ。」

強烈にハグされたり、どつかれたり揺すられたりと激しいボディパンプ。悪気も敵意もないのはわかるのだが、子供なら脳震盪のうしんとうを起こすレベル。

「おめでとう、健。」

おっ⋯⋯息ができない。


「デイブ、そこら辺でやめたれ。壊れかけとるがな。」

伊川さんに止められる。


 実はダンガン氏はニューヨーカーの間ではネタにされるレベルの熱血漢らしくホームランを打って帰って来たら監督も含めてみんなお迎えから逃げまどうらしい。


「すまんな。見ての通りのヤンキーだから。悪気はないんだよ。デイブもいい加減にそれやめんと上に呼ばれんぞ。」


 初戦は俺と伊川さんの投げ合い。俺も少し先発から遠ざかっていたこともあり、6回2失点。またダンガン氏にソロ本塁打を打たれる。悔しかったがレイダースベンチの方がパニックになってて「ざまぁ」と思ったりして。


 ディビジョンシリーズはバレッツが2連勝してチャンピオンシップへの進出を決める。

「次はヤーナーズスタジアムで会おう!」

爽やかダンガン氏。いや次に目についたら一目散に逃げるんで。


 チャンピオンシップの相手チームもルイビルに決まる。勝率があちらの方が高いので、先3勝の最大5戦のシリーズだが最初の2試合と最後の5試合目があちらの球場の開催になるのだ。ちなみにリーグ優勝すると、もう一つのAAAリーグであるパシフィックコーストリーグのチャンピオンチームと1試合限りの頂上決戦があるのだ。マイナーリーグの頂点?一行矛盾の典型みたいだ。


 ところが13日、ついにレイザースが11連敗を喫してしまう。もはや限りなく赤信号である。残り19試合。もう一つでも負けたらワイルドカードは絶望的らしい。


 14日からはこちらはチャンピオンシップ第一戦。先発は梁さん。いや、無理でしょう。思った通りに打ち込まれる。ちなみにレイザースの方はなんとか連敗を止め、首の皮一枚でつながるが状況は変わらず。


 15日はバレッツは防御率が良いグルーマーさん。投げ勝って1勝1敗のタイに戻し16日は移動日でダーラムに戻る。


 レイザースの方はまた負けたが終わってはいないらしい。ワイルドカードは地区の「2位」チームではなく勝率が地区優勝チーム以外の12球団の上位2チーム。だから単純に計算しづらいのだ。


午前中にはダーラムへと帰れたのでチーム練習。しかし監督室に呼ばれる。またクローザーやれって言われるのかなぁ。

 

入るとそこにはなぜかケントがいた。

「あれ、ケントどうしたの?ジュニアの応援⋯⋯の帰り?」

ちなみにジュニアは8月末からはじまったテニスの全米オープンに初参戦し、初出場でいきなりベスト8に入ったのだ、今やアメリカ期待の超新星扱い。


「それもあったけど今日はキミの代理人エージェントの仕事で来たよ。」

 「?」


監督がニッコリ微笑んだ。

「おめでとう、健。キミに今日召集コールアップが来たんだ。今すぐこれにサインしてくれ。そして、この航空券で行って欲しい。セントピーターズバーグへね。」


「おめでとう、健。レイザースはキミとの契約をメジャー契約に変更したいと申し出てきた。条件はしっかりと話し合っているからあとはキミが昇格それを望むかどうかだ。」

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