オールスターブレイク!

 前期の最終戦が終わったのが7月8日水曜日。AAAのリーグ戦再開は16日の木曜日。このわずかの期間がいわゆる「オールスター休暇ブレイク」といわれるものだ。この期間はメジャーマイナー問わずほぼ一緒。


 だからこそ、この貴重な休みをられてたまるかと、オールスターゲームを辞退する選手がいるのである。しかもホームランダービーに出ようものならさらに1日休みが減るわけで、「調整」というお題目を唱えて辞退する選手の気持ちはよくわかる。


 ファン投票で選ばれたならまだしも、しかもすぐに移籍もしなければならないにもかかわらず、俺はオールスターゲームにでなければならないのだ。さすがにホームランダービーへの出場は断った。


 オールスターフューチャーズゲームは12日の日曜日のナイトゲーム。そして15日の水曜日にはダーラムでの暮らしをはじめなければならないのだ。


 ただ、普通は住む場所などは球団が手配してくれるので、たいへんなのは引っ越しくらいか。俺は代理人に手配してもらっている。


 今回ダーラムへ昇格するのは俺を含めた4人。外野手のデズモント・ジェンキンス(デズ)。同じく外野手のジョシュ・ミルトン。そして投手のジェイミー・エリクソン(ヘル吉)。


 クッキーズは前期優勝の立役者をごっそり引き抜かれるわけで、後期はどうなるかはわからない。彼らは人件費は一切払っていないので人事権はまったくないのだ。ただ俺としては新天地に移っても知り合いがいるというのは心強さ以上のものがある。


 昇格をマフィン家に告げると反応は様々だったが祝福してくれた。ライリーは

「ふーん。よかったじゃん。」とのお言葉。おぉ、まさか3か月でこんな前向きなお言葉が。


 ルークは泣いて駄々をこねる勢いだったが、夏休みにダーラムまで遊びに行こうとジョニーになんとかなだめられる。わずか100日くらいではあったが本当にこの家族には世話になった。 


 引っ越しといっても持っているのは野球道具一式、服とパソコンくらい。いや、いちばんめんどくさそうなのが自動車。モンゴメリーからダーラムまで高速でノンストップで行っても8時間。うーん。


 ジョニーに業者に自動車の移送を頼むと幾らかかるか聞いたらビックリ。軽く10万円が吹っ飛ぶらしい。俺の今の月給分くらいかかるんじゃね。自分で運転します。もっとも俺の荷物自体、まとめればトランク3つ分くらいにしかならない。だから車一台で済むわけだ。


 金曜日の午前中はルークのサマーリーグでボランティアのコーチを引き受けた。これはルークのおねだりなので仕方ない。日本だとプロアマ規定に引っ掛かりまくるがアメリカではまったく問題ないのだ。ただし自分でも嫌気がさすレベルの教え下手。これでは引退後のコーチとか監督は無理そう。理論じゃなく魔法で鍛えた感覚で打ってるからなぁ。ようは前世で小馬鹿にしていた名選手たちと言ってることが変わらないのだ。昭和的に言えば「チョーさんレベル」。


 ただこどもたちに「どうやったらホームランがたくさん打てるようになりますか?」ときかれて一瞬答えにつまる。まさか「魔法です」とも言えないし。お願いです。そんな澄み切った眼で俺を見ないでください。


 そして土曜日。ASフューチャーズゲームの開催地、セントルイスへ。デズを乗せてバーミングハムまで車で空港へ。


 「荷造り終わった?」

「おう。月曜には球団ダーラムあてに送るわ。」

デズの荷物もトランク3つ分くらいらしい。1つは飛行機に持ち込めるからあとの二つは送るそうだ。


 飛行機はMLB側がビジネスクラスを用意してくれ快適だった。なにしろ道路とちがって「でこぼこ」がないからね。メジャーに上がれば一人「シート一列」になるらしい。こういう待遇の違いを直に感じると下克上ハングリー精神がわきおこる。


 やがてセントルイスに到着。セントルイスは大都市だ。市そのものの人口は30万人ほどだが、市域人口は300万人を超える。


 空港からタクシーで指定されたホテルまで。そこで簡単な顔合わせをすることになっていたのだ。俺はそこで意外な人物に出会った。


 

 

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