第9話 好きだから-9
しばらく雨の日が続いています。
今日もまた、友崎君も私も屋上には行っていません。でも、友崎君はお昼になるとどこかへ消えてしまいます。購買に行ってそのままどこかへ行ってしまうのです。まだ、お弁当は食べてもらえません。
元気がないように見えるのかもしれません。最近は和美ちゃんが随分よく話し掛けてくれます。私はただ聞き役に回っていればいいだけの状態です。
今日も何人かで集まってご飯を食べていると、和美ちゃんが元気に話をしています。この間の出来事は黙っていてくれているので、周りの誰も私に特別気を使うこともありません。
楽しく話していると、後ろから平田君の声が聞こえてきました。
―――友崎って、よく商店街の方で見かけるぜ。
振り返って聞いてみると、放課後ふらふらと商店街の中を歩いているということです。
「それ、本当なの?」
和美ちゃんも気になったようで、訊いてくれました。
「あぁ、あいつ、ぶらぶらと歩いてたよ」
「あたし、知ってるよ」
薫ちゃんが、言いました。
「あたしの行ってる塾が市役所の向かいで、繁華街のはずれなのよネ。それで、時々、繁華街の中の本屋で時間を潰すんだけど、その時に見たの」
「何を?」
「あの子がクラブへ入って行くのを」
驚嘆の声が上がり、みんなの注目が薫ちゃんに向けられました。
「本当よ、あたし、ついて行こうかと思ったけど、制服だしね、いけなかった」
「友崎君は、制服のまま?」
「一応、上着は脱いでたけどね。手に持って、シャツのまま」
「すっごぉい。そんなの、この学校にいたのぉ」
「やばいよ、あいつ。前から、思ってたんだけどさ」
「でも、この学校に編入してきたんだから、頭はいいんでしょ」
「そんなもん、コネでなんとかなるんじゃないの」
「カネだったりして」
「そうそう、公立じゃあ受け入れ先がないから、私立にカネで」
「でも、家の事情でアルバイトしてるって、緑川先生が言ってたわ」
「まぁ、そういうことにしてるんじゃないの、表向きは」
「遊ぶ金、欲しさ、だったりして」
「要は、遊びたいんだよ」
「高校生って、言ってるのかな?」
「トーゼン!嘘つかなきゃ、入れるわけないだろ!」
みんなが口々に友崎君のことを悪く言います。でも、私は友崎君がそんなに悪い人だとは全然思えませんでした。一度も優しくされたことはありません。ただ、そう思うのです。中井君と岬君に訊いても、きっとそう言うことでしょう。そう、友崎君は、ただ悪く見えるだけなんだと、信じています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます