第2話 好きだから-2
緑川先生が出ていくと、向こうの席の大野君が、教科書を見せてあげようと言ったのですが、彼はいいと言いました。
「まだ、教科書、持ってないんだろ。ほら、席をくっつけろよ」
「いいよ。オレは寝るから」
友崎君はそう言うなり机に頭を乗っけてしまい、自分でその上に帽子を被せて眠ってしまいました。周りのみんなが呆気に取られているうちに、一時間目の山元先生が入ってきました。山元先生は厳しい先生なので、みんな嫌ってはいましたが、やっぱり頼りになる先生だと言う人もたくさんいます。その先生の時間に教科書も持たずに居眠りしているなんて、どういうことになるんでしょう。どきどきしながら、見ていました。山元先生はめざとく友崎君を見つけると、怒鳴りました。
「おい、お前、何をしてるんだ!授業が始まってるんだぞ。起きろ!見慣れないやつだな、名前は何て言うんだ」
友崎君は、頭をもたげましたが、答えようとはしませんでした。山元先生は、一番前の席の子に訊いて、確認しました。
「転校早々、たいしたもんだ。どうだ、廊下で寝るか、それともグラウンドで十周してくるか。好きなほうを選ばせてやろう」
友崎君は何も言わずに頭をかいていましたが、急に立ち上がると廊下に出ていきました。
山元先生は友崎君を止めようともせず、授業を始めました。
友崎君はそのまま教室に戻ってきませんでした。結局、午前中一杯、私の席の隣はからっぽのままでした。少し心配になったので、お弁当を食べおわったあと、和美ちゃんと一緒に緑川先生のところへ行きました。
職員室に行くと、緑川先生も食事を終えたところで、原武先生と話をしていました。緑川先生は私たちを見つけると、どうしたのと訊いてきました。和美ちゃんが、私に代わって話を始めてくれました。
「先生、今日転校してきた友崎君が、午前中さぼっていて、いなかったんです」
「あら、そう」
緑川先生の答えはあまりに素っ気なかったので驚きました。
「先生、教室にいなかったんですよ」
「何があったの?」
緑川先生の質問に和美ちゃんが答えてくれました。緑川先生は、和美ちゃんの訴えに微笑みながら聞いていました。横にいた原武先生が蒼くなっているのと対照的でした。
「そう、そんなことがあったの」
「先生、放っておいていいんですか?」
「そうね、山元先生には後で謝っておくわ。あの子、家の事情でアルバイトしてるのよ。それで、つい眠くなるのよね。あたしのほうから、よくいい聞かせておくわ」
「でも、先生、午後はどうするんですか?」
「そうね」緑川先生は時計を見ながら、「申し訳ないけど、まだお昼休みは残っているみたいだから、探してもらえない?」
「どうする?」
和美ちゃんは私に同意を求めました。私は友崎君が気になっていたので、すぐに頷きました。和美ちゃんもそれを見て、緑川先生に了承を伝えました。
私たちはグラウンドに出てみましたが、当然友崎君の姿は見つかりません。屋上に上がって見ようということになりました。私は、野球部グラウンドの外野席あたりではないかと思いましたが、和美ちゃんは屋上の方があやしいといいました。午前中さぼっていても連れ戻されなかったのは、見つからなかったからで、他の授業中に見つからないのは屋上だ、という和美ちゃんの説明には説得力があり、私も納得しました。
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