第25話 第3階層 ボス その4
「ボクが魔法を使うよ! これが最後の魔法。リーマン鈴木にダメージを与えるよ!」
ヨウスケは苦戦しているハヤトを見つめながら叫んぶ。
「プークスクスッ!! 次はどんな中二病感満載な魔法でゴザルかな~? いや~楽しみでゴザルな~」
レンタロウは嬉しそうにヨウスケに言い寄る。
「からかわないでよっ! ボクはみんなのためにやってるんだよ?」
「おー怖いでゴザル~。ヨウスケ殿の左手に眠る伝説の封印が解けちゃうでゴザル。世界の秩序が崩壊する前に逃げるでゴザルよ~」
ニヤニヤするレンタロウ。
「れ、レンタロウくんだって中二病な妄想したことあるでしょ!? 誰もが通る道だよっ!」
「いやいや、拙者のモットーは質実剛健! 中学生のときでもそんな浮ついた妄想はしないでゴザル」
「ほんとかな~。中学校が違うからその時のレンタロウくんは知らないけど……」
「ヨウスケ殿、驚くなかれ。拙者は中学時代も人気抜群だったでゴザルよ! クラスの女子はみんな拙者のことが好きでござった。男子からも人望厚く、まさにスターだったでゴザルよ」
レンタロウは長い髪をかき上げる。
「……一気に嘘くさくなったよ?」
「友達を疑うとはなんて卑劣! 拙者は自分の過去を偽るようなことはしないでゴザル! 武士道に背くでゴザル!!」
「そ、そっかっ……ごめん。ちょっと言い過ぎだよ」
ヨウスケはレンタロウの真剣な目をみてバツが悪そうにする。
「わかってくれればいいでゴザルよ。ヨウスケ殿と拙者は友達でゴザルからな!」
レンタロウは爽やかに微笑む。
「レンタロウくん……ありがとう! ボク、頑張るよ! ランダム魔法!!」
ヨウスケのマジックポイントが0になる。
杖の上に文字が浮かび上がる。
『魔法:
『発動条件:パーティから対象者を一人選べ。その対象者の中二病的思いでが露になる』
「へ~~面白い発動条件だね。今度は僕じゃなくてもいいみたいだよ?」
ヨウスケは笑みを浮かべてレンタロウに顔を向ける。
「ヨウスケ殿!? なんで拙者を見るでゴザルか!? パーティの中なら誰でもいいでゴザルよ!?」
「中二病的思いでなんて誰も暴露されたくないよ。でも、『質実剛健』な中学時代をおくったレンタロウくんなら、大丈夫だよね?」
「そ、そうでゴザルよ!! でもっ、拙者の過去なんてつまらんでゴザル! ハヤト殿を選ぶでゴザルよ!」
レンタロウの顔から冷や汗がダラダラと流れる。
「怪しいなー。中学時代に中二病みたいな浮ついた妄想はしたことないって言ってたよねぇ?」
「そ、そそ、そんなこと言ったでゴザルか? 言葉のあやでヨウスケ殿にはそう聞こえたのかもでゴザルな!!」
「わりとカッコよく『拙者は自分の過去を偽るようなことはしないでゴザル!』とか言ってたよね?」
「拙者、リーマン鈴木の攻撃のせいで物忘れが激しくなってるでゴザル! だからちょっと思い出せないでゴザル」
「鉛筆が服に刺さっただけだよね? 物忘れが激しくなったなら、昔のレンタロウくんを思い出させてあげるよ。 2年B組 飯田 陽介、レンタロウくんの中二病的思い出を暴露します!!」
ヨウスケは叫ぶ。
床に魔法陣が浮かび上がり、そこから中学時代のレンタロウが現れる。
黒い眼帯を左目にかけ、右手は包帯に包まれている。
中学時代のレンタロウは手にしているノートを開く。
ノートの表紙は黒く塗りつぶされ、赤字で『暗黒日記』と記されている。
「あわわわわー! み、みんな、騙されるなでゴザルっ! これは敵の罠! 拙者を辱めて精神ダメージを負わせる作戦でゴザル! 信じちゃダメでゴザルぞー!!」
レンタロウは顔を赤くしてオロオロする。
「なに言ってるんだ、レンタロウの旦那? 魔法の前で嘘はつけねぇ。中学時代の旦那を100%の精度で再現してるぜ?」
バロンは不思議そうに言う。
中学時代のレンタロウは『暗黒日記』を読み上げる。
◇◆◇◆◇◆◇
3月9日 今日の出来事
今日もまた田中が女子と楽しそうに話してたでゴザル。
腑抜けた奴でゴザル。
一体誰のお陰で平和な日々を送れるでゴザルか!!
拙者が心に制約を課しているからこそ、ダークシャドウがこの中学を攻めてこれないでゴザルぞ!
この制約が拙者をどれほど苦しめているかあいつらは知らないでゴザル。
『クラスの女子と仲良くならない』
こんなつらい制約を拙者は一人背負って生きてるでゴザル。
それにしても……この制約のせいでクラスの女子には本当に申し訳ないでゴザル!!
あぁっ! 許してくれ、ここみ殿!
クラスで一番の美女・ここみ殿が拙者を好きなことは分かっているでゴザル!!
しかし、拙者は女子と仲良くなれぬ制約を課した身!
ここみ殿の好意を受け取れぬでゴザル!
拙者ができる唯一の償いとしてここみ殿へポエムを作ったでゴザル。
授業中、拙者は心の中でこのポエムを唱え続けるでゴザル。
ああ、愛しのここみ殿!
このポエムをあなたに捧げん!
話せなくても
拙者とここみ殿は以心伝心
二人は愛のラビリンス
拙者の愛はエターナル
このドキドキはインフィニティ
拙者は新芽
ここみ殿の愛を受けてすくすく育つ
今こそ二人の愛がダークシャドウを打ち倒す!!
◇◆◇◆◇◆◇
中学時代のレンタロウは静かに『暗黒日記』を閉じ、煙となって消えた。
「うん、その……ごめんね……なんか……ちょっとここまでとは思ってなくて……」
ヨウスケは下を向いてレンタロウから目をそらす。
「こっ、こんなのデタラメでゴザル! みんな、信じちゃダメでゴザル!!」
涙目になるレンタロウ。
「ぐすっ……いいポエムでしたよ……。私が中学時代に書いたポエムにそっくりです。レンタロウさん、あなたは私の生き写しですよ!」
リーマン鈴木は涙をネクタイで拭く。
「だから拙者はリーマン鈴木殿とは似てないでゴザルよ!!」
「レンタロウの旦那、これはデタラメじゃねぇ。過去に本当に起こったことだぜ。ここは宇宙人が作りだしたダンジョン。過去の出来事を忠実に再現するなんて朝飯前だぜ!」
「そんなこと聞きたくないでゴザル!」
「それと補足情報だけどよ、ここみのねえさんは『気持ち悪い人が授業中に私を性的な目でずっと見てくる』って友達に愚痴ってたそうだぜぇ」
「それはもっと聞きたくないでゴザルゥゥウ!!」
「うゎ……。もう、『うぁ……』って感想しか出てこないわよ……」
レナはゴミを見る目でレンタロウを見つめる。
「レンタロウくんは随分と『質実剛健』な中学時代をおくっていたようね。私も一度でいいから『愛のラビリンス』に迷い込んでインフィニティなドキドキを満喫したいものよ」
リンもゴミを見る目でレンタロウを見つめる。
「もう何も言うな……お前は頑張ったよ……」
ハヤトはレンタロウの肩に優しく手を置く。
「発動条件クリアだぜぇ! レンタロウの旦那のポエム、しかと胸に焼きつけたぜ! いくぜ、
バロンの周りに無数の氷でできた槍が現れる。
氷の槍はリーマン鈴木に向かって凄まじいスピードで飛んでゆく。
「ヒッ……ヒッ……ヒックショォォオオーン!! うんぱいろう!」
リーマン鈴木はクシャミをする。
クシャミの暴風を受けても氷槍の勢いは止まらない。
「くっ……ならば防ぐのみです」
リーマン鈴木は新聞紙を広げて防御態勢をとる。
数多の氷槍がリーマン鈴木に激突する。
「なっ、なんのこれしきー!!」
リーマン鈴木は両腕を震わせながらも新聞紙で氷槍の激突を防ぐ。
「あっ! こんなところに500円玉が落ちてるでゴザル!!」
「えっ、どこですか!? 拾った金で買う酒は上手いですからね~」
リーマン鈴木は新聞紙を下げて顔を出す。
「かかったでゴザルな!」
レンタロウはニヤッとする。
「なっ! しまったっ!!」
数多の氷槍がリーマン鈴木に激突する。
リーマン鈴木は後ろに吹き飛ばされた。
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