第132話「幸せと不幸は釣り合っている」

「すりすり……」


 寝室で二人きりになると、シャーロットさんは猫のように俺の胸に頬を擦りつけていた。

 二人きりになれて嬉しいのはわかるのだけど、遠慮が全然なくなっている。

 まぁかわいいからいいのだけど。


「シャーロットさん、くすぐったいよ」

「だって、離れていた間寂しかったですもん……」


 拗ねたように言ってくるけれど、半日しか離れてないんだよなぁ。

 むしろ俺がいない間、隣の部屋で彼女がどうしていたのかを知りたい。

 あとでソフィアさんに聞いたら、教えてくれないだろうか。


「これからは、一緒にいられる時間も沢山増えるよ」

「お部屋、一緒ですもんね」


 花音さんたちの計らいにより、俺とシャーロットさんは大きめの部屋を二人で使うことになった。

 ベッドのサイズはキングサイズという聞き馴染みのないもので、エマちゃんが一緒に寝ても余裕らしい。

 本当に至れり尽くせりだ。


 エマちゃんに関しては、一応ソフィアさんと同じ部屋とのことだけど、あの子のことだから俺たちの部屋に遊びに来るだろう。


「早く引っ越ししたいです」

「もうすぐだよ」


 もうすぐというか、このまま引っ越しの荷物が準備できれば、後は持っていくだけなのだけど。

 シャーロットさんもそれはわかっているはずなのに、言っていることとやっていることが逆だ。

 俺を解放してくれたら、荷造りもすぐ終わると思うのだけど……。


「私、最近怖いです」

「えっ、何が?」

「幸せすぎますし……私にとって、凄くいいことばかり起きていますので、その反動がいつか来るんじゃないかと……」


 幸せと不幸は釣り合っていると言われている。

 だから、幸せすぎる今の反動が怖いんだろう。

 だけど、それなら考え方を逆転すればいい。


「大丈夫だよ、もうとっくに不幸の分は支払い終えてて、幸せが来ているだけだから。少なくとも俺は、シャーロットさんと出会うまで辛くてしんどかったし、君と出会って報われたと思っているよ」


 今までにあった不幸は、シャーロットさんと出会うためのものだったと思っている。

 シャーロットさんだって辛い目に遭ってきたようだし、これから幸せを掴んでいくと思ったらいいんじゃないだろうか。


「そうですね……それに私は、明人君さえ傍にいてくださったら、他は何もいりませんので」

「俺も同じだよ。シャーロットさんが傍にいてくれたら、それだけで幸せだ」


 どんな不幸や辛い目に遭おうと、俺はシャーロットさんがいてくれる限り乗り越えていけるだろう。

 少なくとも、怖いものなんて一つもない。

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