7.男連中の好みのタイプ
俺の所属するパーティーの男女比はちょうど半々である。
だからというわけではないが、飲みに行く時に男と女でそれぞれ分かれて行くことがあった。
そんなわけで、本日は俺達男連中だけで酒場に来ている。
「とりあえずなんか酒飲もうぜ」
「シュミットって僧侶なのに酒とか肉とか、あまり抵抗ないよな」
エリックの言葉にブライアンがうんうんと頷く。
その辺の戒律は教会によって違う。まあどっちにしろ俺には関係ないけどな。
「ついでに女もオッケーなのでよろしく。巨乳の美女がいたら紹介してくれよな」
「そんなこと言ってるとネルに怒られるぞ」
「は? なんでだよ?」
「え」
エリックの爽やかな笑顔が固まった。
俺なんか変なこと言ったか? ブライアンも目をまん丸に見開いてるし。
二人が固まっているので仕方がない。注文は俺がしといてやろう。
「すいませーん。注文いいっすかー?」
店員から元気の良い声が飛ぶ。間もなく注文を取りに来たので適当に酒や食べ物を頼んでおいた。
「なあシュミット。ネルは君の大切な人なんだろ?」
注文が終わったタイミングでエリックが聞いてきた。
「あ? そりゃそうだよ」
あれでも一応可愛い後輩だからな。もし泣かせるような男に引っかかったら俺がそいつを直々に殴りに行く所存である。
「だったら浮気なんてするべきじゃないだろ」
ぎょっとした。
え、大切な人ってそういう意味? 男女関係のあれ的な?
俺と後輩が、と考えて、ねえなと思った。
「どっからそういう勘違いをしてたか知らんが、俺と後輩は男女の面倒な関係じゃねえぞ。ただの先輩と後輩だ。それ以上でも以下でもねえよ」
エリックとブライアンが顔を見合わせる。互いにアイコンタクトを取ると頷き合っていた。やめろよな、俺をハブるような態度すんの。
「デリケートな問題のようだ」
「……うん。冷やかさないのが……吉」
だから俺に聞こえないように小声で会話すんのやめろ。
料理がきたところで一時話は中断される。
「今日見舞いに行って聞いたんだけど、そろそろレイラも退院できるみたいだ」
話はパーティーの今後へと移り変わる。
「退院したらすぐに迷宮に行くのか?」
「そうだな。この間のこともあるし、浅めの階層で様子を見ながらになりそうだがな」
「あ、安全……第一……だね……」
さすがはリーダー。パーティーメンバーのことをよく考えていらっしゃる。
……さて、お気づきになっているだろうか。
寡黙キャラのブライアンがつっかえつっかえではあるもののしゃべっているのだ!
こいつ、女がいない時の方がしゃべるのだ。シャイボーイかよ。外見がでかいだけに似合わねえ。
さらに言えば女相手でもディーナ相手なら会話できるようだった。女扱いされていないとか言ってはいけない。ブライアンもそういうつもりでってわけでもないみたいだ。
エリックとブライアン、それにディーナを加えたこの三人がパーティーの初期メンバーである。そこに俺とネルが加入して、その後にレイラが入ったという流れだ。
だからこそ初期メンバーの三人はとくに仲良しなのだ。だがはっきりとした関係性を知っているというわけでもない。
ちょっと気になる……。
レイラが退院するまでに揃えておくアイテムを話し合ったり、高値で売れる素材などを整理する。
話が一段落したところで聞いてみることにした。
「そういやブライアンってディーナ狙いだったりすんの?」
「……え?」
きょとんとした大男だったがすぐにあたふたし始めた。
「そ、そんなんじゃ……ない」
顔を真っ赤にして慌てる姿はなんか恋する男子って感じなんだよなぁ。もともと恥ずかしがり屋なだけに判断が難しい。
ちなみに俺はディーナには興味がない。銀髪褐色肌はいいと思うが、いかんせん胸がない。後輩よりはあるようだが貧乳には変わりないのだ。
俺は巨乳のお姉さんしか認めないからな。今後ハーレムを作るにしても巨乳以外は入会拒否である。今のうちに最低限のバストサイズでも決めとくか?
「はははっ。ディーナとは長い付き合いだけど色恋の話は聞いたことがないな。あいつ戦うことばっか考えてるみたいだからさ」
「そういうエリックはどうなんだ? 実はディーナのこと好きなんじゃねえの? というかディーナがお前のこと好きかもしれんぞ」
ディーナはディーナでエリックに話しかけることが多いからな。リーダーという理由があるにしても、仲は良好に見える。
「俺? うーん……、考えたことないな」
もしディーナがエリックに気があるとしたら、今のセリフはショックなんだろうなぁ。と、他人事に思いながら酒を呷った。
それぞれ酒が回ってきたのだろう。男同士の話は続く。
「俺は見た目だけで言うならレイラが好みだな」
「マジで? あいつすげーわがままなんだけど」
「見た目だけの話って言っただろ。黙ってたら綺麗なお嬢様って雰囲気だろ? そこがいいんだ」
まあどこぞの貴族というのもあって仕草だけなら気品があるんだよな。
「でもレイラも胸がないから俺は無理」
断言する俺にエリックとブライアンは苦笑いを浮かべる。
レイラが美少女というのは俺も認めてやらんでもない。ウェーブがかった金髪に整った顔立ちをしている。私服のセンスもパーティーで一番だったりもする。
だが貧乳だ。俺の目算でもディーナとそう変わらないほどの貧乳だ。ただディーナよりは小柄なのでちょっとだけレイラの方が胸があるように見える。つまりパーティーで一番胸があるのがレイラということになる。……悲しい。
態度じゃなくて体をわがままにしとけよ。そう思ったことが何度あるか数え切れない。本人の前で口にしたら烈火の如く怒るだろうから黙ってるけど。
「ブライアンはどうなんだ? 女の好みとかさ。どんなタイプがいい?」
「ぼ、僕は……」
話を向ければもじもじとするブライアンがそこにいた。正直気持ち悪い仕草だと思いました、まる。
「あ、あくまで……タイプの話……だよ……」
「乙女か。いいからさっさと言え。白状しろ」
ブライアンは伏せた目を俺に向けた。
「ネル……だよ」
俺とエリックは驚いた。
「お前……ロリコンだったのか!」
「いやそこじゃないだろ」
エリックにツッコまれるがそこだろうが。
男の中でも抜きんでてでかいブライアンと、女の中でも小柄な体躯をしたネルである。二人並べると大人と子供どころの差じゃねえぞ。犯罪臭がするのは俺だけか?
「ブライアンお前……あんな小さい体に○○○を○○○して○○○するつもりなのか!」
「黙れシュミット」
いつもは考えられないほどの冷たい声でエリックにはたかれた。さすがは前衛アタッカー。涙が出そうなくらい痛いじゃねえか。
ブライアンは恥ずかしさに耐えるように後輩の良さを説明する。
「ネルは……優しくて……。僕がどもっても……急かさないように、ゆっくり待っててくれるんだ……。それにしゃべらない僕を……さりげなく気遣ってくれたり……すごく、感謝、している……」
「お前ネルに恋してんの?」
「え、えぇー!? そんなめめめめめめめ滅相もない!!」
「慌てすぎだ。それに大きな声出せるんじゃねえか」
それに外見じゃなくて性格の話になってるし。いや、それが好みのタイプってことか。
「別に恋愛くらい勝手にすればいいだろ。それにいつかは男と女はまぐわうんだよ。それが神の意志ってもんだ」
「シュミットって教会で異端児って呼ばれてたりしないか?」
「よく知ってんな」
あとは破戒僧とかあったか。なんとなくカッコいいと思ったので気分良かったぜ。
「でも外見はどうなんだよ? あいつ胸ないだろ。ぺったんこだぞ」
「可愛い……よ」
なぜか重みのある一言である。
珍しくブライアンがまっすぐこっちの目を見つめていたからだろうか。なんというか紳士だ。そう感じた。
そうか……。ブライアンは貧乳好きだったか……。好みは人それぞれだからな、否定はすまい。
「えーと……。そういやシュミットはどうなんだ? 女性の好みってさ」
エリックは俺に話を振る。
ふっ、そんなの決まってるだろうに。
「俺か? 俺は断然おっぱいが大きい女だな」
そこで話は終わった。
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