パーティーから追放されてからの成り上がりが流行っているらしいので俺も乗っかってみることにした

みずがめ

1.パーティーから追放されたい男

 最近聞いた話なのだが、パーティーから追放されてから大成した奴等が続出しているらしい。

 逆説的に言えば、パーティーから追放されさえすれば大成するってことだ。


「よし! 俺もそのビッグウェーブに乗るぜ!」


 そして俺は新たなパーティーを結成し、自分だけの巨乳ハーレムを作るのだ! ふはははははははははははっ!


「何ニヤニヤしているんですか先輩? 気持ち悪いです」

「もっとオブラートに包めよ」


 いつの間にか俺の目の前には長い青髪の女の子がいた。

 彼女の名前はネル。この少女とは同じ教会で僧侶としての先輩後輩の間柄である。それから同じパーティーに入っている。そして同じ役目を持ったヒーラーなのだ。

 このモロ被りはでかい。何がでかいってリーダーが俺を追放する理由になるからだ。

 こういうのはぱっと見で俺よりも優秀であるのが重要だ。「お前なんか下位互換なんだよ」とかいうセリフを引き出せれば完璧である。

 俺がヒーラーってのも大事なポイントだ。なんか成功してる奴等ってヒーラーやらタンクやら、守りに偏ったのが多いらしいからな。その点俺はヒーラーだから条件はクリアしていた。


「なあネル。お前って優秀だよな」

「はあ、そんなの先輩に言われなくてもわかってます」


 ちょっとは謙遜しろよ。

 昔は本当にかわいい後輩だったのになぁ……。どうしてこうなった。

 こんなに生意気になっちゃったから未だにぺったんこなんだよ。年齢を考えればまだ成長の余地がないとは言い切れないが、こいつはそのまま育たないままで終わりそうだ。


「その目はなんなんですか?」


 心が読まれたわけじゃないんだろうになんで睨むんだ? まさか目だけで俺の頭の中を読み取ったわけじゃないだろうに。


「いやー、俺達のパーティーって俺とネルの二人で回復役やってるよな?」

「ええ。それが?」

「リーダーが俺をパーティーから追い出すんじゃないかと思ってな」

「はあ?」


 ものすっごい怪訝な顔をされた。

 こいつ普段から表情筋があんまり働いてないのにたまにがんばるよな。ずっと無表情キャラを貫く方が人気が出ると俺は思っている。

 今は後輩の人気とか置いておこう。


「ぶっちゃけネル一人でもヒーラーとして問題ないだろ。それなら俺が抜けても関係ないんじゃないかって――」

「関係ないってなんですか」

「はい?」


 なんだか後輩の目が吊り上がっている。いや、ほんの些細な変化だ。長い付き合いである俺くらいにしかわからない程度の変化だろう。

 だから怒ってるってのはわかった。うん、わかったから怒らないでほしい。


「関係なくないです。先輩はこのパーティーでは必要な人材です。先輩のおかげで私達が死なずに済んでいるのはパーティー全員わかってます」

「お、おう……」


 なぜ俺は後輩に気圧されているのだろうか。

 あれか。不当な評価を怒ってくれるキャラ。それって俺の後輩だったんだな。できればもっと巨乳の美少女がよかった。

 でもこういうキャラがパーティーにいちゃダメだろ。もっとこう、俺を理不尽に嫌っている奴じゃないとダメだ。じゃないと追放されないからな。

 それはできればパーティーリーダーが望ましい。無駄にパーティー内での権力があるからな。そんな奴の意見が通ってしまうのはムカつくところだが、それを乗り越えることこそにカタルシスを感じるのだ。

 そんなわけで後輩の相手をしている場合じゃないな。リーダーのところに行こう。

 決して怒っている後輩が怖いからじゃないぞ。うん。



  ◇



 俺の所属するパーティーは六名で構成されている。そのリーダーを務めるのはエリックという男だ。

 エリックは剣を扱い魔法も使える万能型である。このオールマイティな感じ、リーダーっぽいだろ。


「ようエリック」

「シュミット。どうしたんだ? まだ迷宮に行く時間じゃないぞ」

「なんだよー。迷宮に行かなきゃ会いに来ちゃいけないってのか?」

「そんなことはないさ。ははっ、嬉しいよ」


 エリックは爽やかに笑った。

 ちなみに俺達のパーティーメンバーは全員住居がバラバラだったりする。金持ちパーティーなら全員がいっしょに住める一軒家とか持っているのだが、あいにく俺達にそこまでの金銭的余裕はない。

 いや、ネルだけは俺といっしょの宿に泊まっているな。先輩後輩という間柄だ。これくらいの節約は許されるだろう。

 さて、話を本題に戻そう。

 こいつから追放宣言を受けるのが一番なんだがな。やはりリーダーの権力は大きい。たとえ後輩が俺を庇ったとしてもリーダーの言うことには逆らえまい。


「なあエリック。パーティーについて考えてることってあるか?」

「パーティーについて? 珍しいな。シュミットからパーティーの話題を振るなんて」

「なんだよ。俺が無関心みたいじゃねえか。これでも仕事仲間のことくらい考えてら」


 一割くらいはな。あとは巨乳の女性といかにしてお近づきになれるかとかを考えている。九割は一途な俺。


「で? どうなんだよ。今のパーティーに不満とかあるか? 俺は甘んじて受ける覚悟を決めてるぜ」

「覚悟?」

「なんでもねえ。早く答えろよ」

「そうだな……。バランスは良いと思う。前衛にアタッカー二人とタンク一人、それから後衛にヒーラー二人とアタッカー。あとは連携だけど、それを向上させるためには経験しかないんじゃないかな」

「バランスか……。でもヒーラー二人よりはアタッカーとかタンクがいた方がいいんじゃないか?」

「いや、ヒーラーが二人いるから俺達は攻めることに集中できるんだ。ここでシュミットやネルがいなくなって代わりにアタッカーが入ったとしてもダメージが気になって今みたいに戦いに集中できなくなるだろう」

「……」


 なんか不満とかなさそうだな……。

 もっとこう、お前の回復は役に立たねえとかさ。俺をののしってくれていいんだぜ? ……待て、これじゃ俺がドMみたいじゃねえか。勘弁しろよ。そ、そんなんじゃないんだからねっ。


「で、でもよ。ネルの回復は優秀だが俺はそこまでじゃないぞ」


 実際に回復魔法だけならネルの方が優秀だ。後輩に抜かされる先輩。そこまでプライド高いわけじゃないので別に気にしてないけどな。

 それに、後輩に負けていても俺はその辺のヒーラーよりは優秀だと自負している。たぶんこのパーティーを抜けたとしても引っ張りだこになるだろうな。


「だとしてもシュミットはいざとなったら戦える力を持っているだろう。君がいるから安心して後衛を任せられるんだ」


 あれ、もしかして俺の評価ってなかなか良いんじゃないか?

 後輩にヒーラーとして負けてるから不当な評価をされてもおかしくないと思っていたのに。

 なんてこった。俺は自分の優秀さを隠しきれていなかったようだ。エリックも俺の良いところをしっかり見やがって……う、嬉しくねえぞ!

 こんなことならもうちょっと手加減しておくんだった。いや、後輩がいるからすぐにバレるか。


「おっと、そろそろ集合時間だ。今日も迷宮探索がんばろうな」


 そう言ってエリックは爽やかに笑う。

 この男、なかなかに好青年なのだ。

 そうだった。そんな好青年に理不尽にパーティーから追放されるわけがなかったのだ。

 くそっ、作戦は失敗か。

 だが諦めないぜ。俺はパーティーから追放されて絶対に成り上がってやるのだ!


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