§17 二人のバレンタイン

 三学期が始まり、クラスの中で、七海と千宙の関係は誰もが認める仲になっていた。また、部活に百瀬は姿を見せなくなり、七海はほっとしていた。

 バレンタインの朝、千宙と一緒に登校しながら、

「今日は何の日か、知ってる?バレンタインだよ!千宙君は、いくつチョコをもらうのかな?部活の後で待ってるから、報告してね!」

「いくつももらわないよ。七海のチョコだけで、満腹になるよ!」と照れながら言う彼を、私は愛おしく思っていた。

 放課後、私は千宙君にチョコレートを渡した。

「一応、手作りチョコだよ!わたしの愛情がたっぷりだから、食べてね!」

「ありがとう!愛情か?恋とか愛とか、何だろうね?よく分からないや。」

 千宙君が悩まし気に言うのは珍しく、私は返答に困った。

「わたしもよく分からないけど、好きはその人のことが気になって、一緒にいて楽しくて、心が魅かれるってことかな?どう思う?」

「そうかもな。俺は七海が気になって、一緒にいたいと思ってる。だから、好きなのか?じゃあ、恋は何なの?」といつになく千宙君は核心を突いて来た。

「好きの後に来るのが、きっと恋だと思う。もっともっと一緒にいたいとか、ドキドキするのが恋なのかな?はっきりと線を引けるものではないよね。」

「俺たちは?ただ好きなだけ?お互いに恋してる?俺の頭の中に、気が付くと七海がいつもいて、七海のことをもっと知りたいと思ってる。」

「わたしも同じだよ!最近、千宙君のことを考えてる時間が多いの。勉強している時も、お風呂に入っている時も、寝ようとしている時もだよ!」

 二人の会話が、恋愛への入口だという結論に至るには、年が若過ぎた。


 千宙と悩ましい話をして結論が出ないまま、七海はモヤモヤした気分で帰宅した。家には父親が帰っていて、部屋に行こうとするのを呼び止められた。

「七海、パパの転勤が決まった。また転校することになるが、承知してくれ。」

「それ本当なの?いつから、どこへ?」

 私は父の言葉に、ショックを受けた。春休みに引っ越しをして、4月から静岡の中学校に転校する事になった。学校の事はともかく、千宙君との事が私にとっての重大事だった。さっきまで好きだとか恋だとか語り合って楽しい時間を過ごしていたのに、崖から突き落とされる気分とはこういう事だと思った。頭の中は真っ白で、彼にどう告げたら良いのか、この先はどうなるのかと気が動転していた。

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