現役人気アイドルとお付き合いしています。ファンの皆さん、すいません……。

神宮瞬

第1話 人気アイドル

 深夜の一時。日曜日の朝。

 飲み会から帰ってきたばかりの大学生の俺はベットに寝転がりながら、スマホを弄っていた。

 何気なく動画配信サイトを開き、検索エンジンに若菜琴海わかなことみと打ち込んで、一番上に出てきた動画を開く。


【超絶かわいい"若菜琴海"まとめ】24万回視聴


 若菜琴海は日本の中でも一二を争う人気アイドルグループ「SIRIUS40」のメンバーだ。途中から加入した4期生に当たる。

 

『若菜はどう? 最近面白かったことある?』

『……特にないです』

『何か、怒ってる?』


 動画の内容はバラエティ番組の切り抜きである。SIRIUS40の冠番組で、MCは芸人が担当していた。

 若菜は無口で実は甘えん坊というキャラが確立していて、ファンから「ことちゃん」と親しまれていた。


『次は、山本唯から若菜琴海へのタレコミ情報です。えーと、若菜は暇になったりお腹が空くと、メンバーに抱きつこうとする。これは意外ですねー。山本、詳しく説明してくれる?』

『はい! 琴海は基本、楽屋では携帯を見たり本を読んでるですけど、時々何もしてない時があって、その時にはよく色んな人に抱きついてます!』

『若菜って意外と甘えん坊なんだねー』   


 若菜は紅くなった顔を片手で隠しながら、もう片方の手を横に降って否定する素振りを見せた。しかし、そんな若菜を見た他のメンバーも追撃する。


『よく「お腹空いた〜」って言って抱きついて来ます』

『いつも誰かに抱きついてる〜』

『うんうん』


 それを聞いたMCの芸人が笑いながら言った。


『え、若菜ってコアラなの?』


 メンバーが皆、一斉に笑う。

 若菜は恥しそうに否定し続けていた。


『若菜、これは本当?』


 もう一人の芸人が問う。


『そんなことしてないです』


 涙目で若菜は応えた。


『かわいいなあ!』

『かわいい!』

 

 二人の芸人は若菜はデレデレした顔で反応する。

 そして、次の場面へと移り変わった。


 それから、若菜琴海のサッカーボールを上手く蹴れないシーンや、とても似合っているヒヨコのコスプレをした企画、意外と賢いことを露呈させたクイズ企画で正解を当てて喜ぶシーンと続いていく。

 十分程経って、俺はその動画を見終わった。

                         

「……結構頑張ってんな」    


 下にスクロールしてコメント欄を除く。


――――――――――――――――

コメント121             

【2:15かわいすぎる】 

【めっちゃ可愛いって言って照れさせたい】

【無口で甘えん坊っていうのが最強にかわいい】

【4:43ヒヨコのコスプレが世界で一番似合うアイドル】

【何でも素直に聞くところが好き!仕事中もずっと琴ちゃんのことを考えてます】

【ニャー(⌒▽⌒)】

【0:54自己紹介する琴ちゃん

 2:01実は甘えん坊な琴ちゃん

 3:17PK対決で失敗する琴ちゃん

 4:30ヒヨコになった琴ちゃん

 5:28クイズに応える琴ちゃん……】

【声も顔もかわいい】

【やっぱ若菜だわ】

【侑李と琴ちゃんのイチャイチャは至高】

【照れる琴ちゃん尊い】

【加入した頃から比べて、だいぶ喋れるようになったよな

 反応も可愛いし、最近は皆に抱き着くようになったっていうほっこりエピソードが好き】

【何してもかわいいんですが?】

【琴ちゃん、お誕生日おめでとう!!!!!】

【意外と知的な所にキュンとくる】

【可愛いな】

【結婚して養いたい!!】

【アイス食べさせたい】

【無口だけど、手振り身振りがめっちゃ可愛いんだよな】

【この動画だけでも成長してるのが分かる。

 段々と皆と仲良くなっていく琴ちゃんにオジサン泣きそうです】

……

――――――――――――――――


 ざっとコメントを見た俺は欠伸をしながら、電気を消した。

 携帯はコンセントに繋いで、ベッドに横になる。








――――――――




 翌朝。

 俺は目覚まし時計を設定してなかったので家のチャイムで目が覚めた。

 時計を見ると、既に九時は過ぎている。一瞬、やばいと慌てたが、今日は日曜なので授業はないと思い出した。


「こんな朝早くから誰だよ……」


 眠気眼を擦って、インターホンに行く。


『はい』

『琴海です。もしかして、まだ寝てた?』

『……今起きた』

『起こしちゃってごめんね』

『今日来るって聞いてなかったんだけど』

『暇だから会いに来ちゃった』

『暇だからって……。着替えるから少し待ってて』

『分かったー』


 急いで顔を洗い、服を着替える。

 寝癖はまだ直していないが、余り外に待たせるのは悪いと思ってドアを開けた。


けいくん、おはよう』


 そう言って、ボブカットの美少女が俺の家に入ってくる。

 大きな目に整った顔立ち、そこらのアイドルに引けを取らない容姿をしている。

 靴を脱いだ彼女は、無言のままの俺を見て首を傾げる。


「どうしたの?」


 一つ一つの仕草に品を感じるともに、可憐さが際立った。


「いや、何でもない」


 俺は彼女から目を逸らした。



 読者の方にはもう言う必要は無いだろうとも思うが、彼女のことを一応紹介しておこう。

 彼女の名前は若菜琴海、人気アイドルグループSIRIUS40のメンバーだ。


 人気アイドルが男の家にやって来た。そして、今は二人きり。

 それに、俺は芸能人とかでもなく、普通の大学生だ。


 では、俺と彼女の関係は何なのか。


 ……現役人気アイドルとお付き合いしています。

 ファンの皆さん、すいません……。

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