死神 10

 しかし、こいつ、なんでこんなに血眼になってるんだ? ただのノートだろ。ちと理由を訊いてやるか。

「これ、ただのノートだろ? なんでそんなに必至なんだよ。支給してくれないのか、代わりのノート?」

「そんなの支給してくれるはずないじゃん。1人1冊て決まってんの!

 本部から近々死ぬ人の名前がそのノートに転送されてくるの。それがないと私たち死神は仕事ができなくなるのよ!」

「なくすとペナルティがあるのか?」

「あるわよ。それをなくすと、私たちは人間にされちゃうのよ!」

 それを聞いてオレは思わずプッと噴き出してしまった。それを見てやつがカッとした。

「何がおかしいのよ!」

「だって人間だろ。いいじゃん、人間て。素晴らしいぞ!」

「バカ言わないでよ! 私はこう見えても500歳を超えてんのよ! 人間になったらせいぜい100歳しか生きられないんでしょ? そんなの私、絶対嫌よ!」

 ええ、こいつ、戦国時代から生きてんのかよ? う~ん、それじゃ、嫌だろうなあ・・・

 でも、正直こいつがどうなろうと、オレにはまったく関係のない話だ。いや、いっそうのこと人間になって、オレの妹になってみないか? 死神だったらいまいちかわいくないが、妹になったら案外とかわいかもしれないぞ。オレは一人っ子。ずーっと兄妹が、特に妹てやつが欲しかったんだ。

 ああ、なんかめんどくさくなってきたなあ。一気に吹き飛ばしてやるか!

 オレは大声で、

「パンプルピンプルパムポップン!」

 と呪文を唱えてやった。かわいい死神はその呪文を聞いてびっくりしたようだ。唇が「なに、それ?」と言ってるようにも見えた。が、それはほんの一瞬の出来事。かわいい死神はぱっと消えてしまった。と同時に、時間が再び動き出した。

「あれ、なんで立ってるの?」

 女万引きGメンは座ったまま、びっくりしてた。そりゃそうだ。時間が止まったときオレは彼女のはす向かいに座ってたのに、今は背中を向けて立ち上がってるんだから。


 帰りの時間になった。オレたち3人はファミレスを出た。と、男子高校生はオレに向かって再び深々と頭を下げた。

「いろいろとご迷惑をかけて、すみませんでした」

 謝ってもらえるのは嬉しいけど、別にそこまで腰を低くすることはないだろって。だいたいオレはあんたから何も被害を受けてないよ。こいつ、本当にいいヤツなんだな。

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