第10話



そしてシャインも消えた。ご主人様も私の前から姿を消して、代わりにいつぞやの青い服の女性が私の世話をするようになった。


青い服の女性は一切無駄な会話をしなかった。方って置かれるのが逆に心地よい。


そして数日が経過するとご主人様が一人の女性と共に帰ってきた。



『まあ!話には聞いていたけれど本当に素晴らしい黒髪に黒目です事』


『ええ。私の自慢です。マダム、今日はランカを貸し出して頂き感謝します』


『ふふふ、日本愛好家である貴方の頼みは断れませんわ。でも約束ですわよ?二人目の子はわたくしに、ね?』


青い女性に飾り付けられて、ご主人様とお客様の前に立たせられる。茶髪の凄い派手なお客様は私のことをねっとりと上から下まで舐め尽くすように見ていた。


『ええ。ランカと……真珠の子供ならとても可愛らしい、でしょうね』


『そうでしょうね。おいでなさい、ランカ』



そして二人の影から一人の青年が姿を現した。

彼の纏う色を見た瞬間目を見開く。


「ハジメマシテ」


黒髪と、黒目。堀の浅いペタンとした顔。

少し私より色黒だけど、似たような肌色。


「ランカ、デス」


イントネーションはおかしいけれど、聞きなれた日本語。


『真珠?』


ランカ、ランカ。

私と同じ、日本人。


「……ランカ…」


ぽつりと呟くと息を飲む音が聞こえた。

けれどそんなことに気を取られず、呆然としながらランカに歩み寄りーーー手を伸ばす。


「ハイ、シンジュ」


触れた黒髪をそっと引っ張る。クイッと抵抗のある感触。確かに黒髪は彼から生えていた。


『あらあら、真珠ちゃんはランカをお気に召してくれたようね』


頬を暖かいものが伝い落ちる。

彼は、クラスメイトの山田くんによく似ていた。小学校からずっと同じ学校だった山田くん。


一緒に掃除当番だった時もある。給食係も。

球技大会では敵だった。インフルエンザに一番早くかかったのは彼で。


山田くん、佐藤さん、ミキちゃん、お母さん、お父さん、潤…!


触発されるように失った人達の思い出が次々と溢れ出す。涙が溢れ出す。


「ナカナイデ、シンジュ」


そんな涙を彼が拭って。

心配そうな彼に抱きつこうと手を伸ばすーーーー



しかしその手が届く間に私は抱き上げられた。

怒りを顕にしたご主人様によって。


『この話はなかったことにしてくれ!』


そしてすぐにご主人様にさらわれる。


「ランカ!!」


「シンジュ!!」


ランカと手を伸ばしあったけれど

その手は触れること無く、終わった。

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