玩具寵愛
海華
第1話
「そんな!何とか出来ないんですか!」
「…残念ですが今の医療では無理だそうです」
ああ、またダメだった。
両親が必死に探してきた外国の名医さん。彼でも私の心臓を治すことは出来ないようだ。
必死に医者に、通訳に訴えかけてくれる母の気持ちは嬉しいけれど。どうしても無理というものはどうしようもないだろう。
逆に、はっきりと言ってくれる方が諦めがついてまだいい。
「え!?え、いや…日本ではそんな技術…ええ、はい」
「どうしたんですか安西さん!」
私の心臓はポンコツ。
誰も直せない、残り少ない寿命。お金持ちの部類であるうちでも、治せる先生を探せないくらい厄介な代物。
事実を受け入れて黙っていると不意に通訳さんが動揺し始めた。
お医者さんの言うことは彼じゃないと分からない。先生がなにかおかしなことを言ったのだろうか。
「……夫人、この国では今治せない病気の延命措置として冷凍睡眠(コールドスリープ)の技術が発展しているそうです」
「コールドスリープ…?」
「ええ。莫大な維持費がかかるそうですが、冷凍して医療の発展を待つ方法だそうです」
「いくらでも!この子のためならばいくらでも出すわ!!」
ーーーー……。
目を開けると、数人の外国人が私を見ていた。
私が目覚めたということは、私を治せる技術が発達したのだろうか。
周囲を見回して声を出そうとするも喉が乾きすぎてこほっと空咳が出る。
すると外国人の中でも目を引く青い髪に青い目、さらに青い服と全身真っ青な女性が水の入ったコップの様なものを差し出してきた。素直にそれを受け取り飲むと喉に潤いが広がる。
『Kjrsifbe ns;ayi nwh?』
どうしよう何語だろう。分からない言語で話しかけられて首を傾げる。
『……#i3nf,%%jahジャパン?』
ん、今度はまた別の言語のようだ。今度はジャパンと聞こえた気がしたけれど、やはりよく分からないので首を傾げる。
『貴女はhdia@を喋れますか?』
今度は酷い訛りの英語だった。聞き取ることは出来たけれど言われた言語を聞き取れなかったので首を横に振る。
母さんも父さんも目に見える範囲には居ない。両親はもう亡くなってしまったのだろうか。治療法が見つかるまで時間がかかることもあるからそんなこともあるかもしれないと、予告は受けていたが……。
『困ったわね。流石に500年前に消滅したニホンの言葉を話せる人を探し出すのは骨が折れるわ』
不意にそんなことを青い女性がポロリと零して、固まる。
『対話は諦めましょう。彼女はこのまま売りに出します』
『心臓疾患があるとなっていますがそちらはどうしましょう?』
『すぐに売れるでしょうからそのままで良いわ。私達が治すより、この子のご主人様が良い治療をしてくれるでしょ。唯一の純血種のニホン人よ、下手なことは出来ないわ』
どういう、ことだろうか。
私は医療の発展を待つために眠りについた、筈だった。
売りに出す?
消滅したニホン?
唯一のニホン人?
『お父様を呼ぶわ。奴隷商人、アーカード様に通信を入れてちょうだい』
奴隷商人。売りに出す。
コップを持つ手が、震える。
『私は、延命措置として眠りについたんじゃなかったんですか……?』
確認することが怖い。でも確認することも怖い。
恐る恐るそう口に出せば、青い女性はハッとした顔でこちらを見てから静かの呟いた。
『眠らせなさい』
そして私の意識はまた闇に落ちた。
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