公子、婚約の話をする1

 王都のルヴィエ侯爵家の邸宅で、ナディアと面会した。

 人払いしてもらい、2人きりで話す。


「すごいわね。本当にキラキラしているわ」

「はい?」

「これじゃあ、教会前に貴方を拝みに行く人が続出するわけだわ」


 ああ、いたな、そういう人たち。

 一般人だけでなく、貴族からの面会の申し込みも、すごいんだよ、今。


「3週間、自分の魔力の全てを、聖属性に変換し続けたから。普通の生活に戻ったら、マシになると思う」

「そうなの? 今の貴方の影響力、すごいわよ。王家は教会を解体した後、新たに王国教会を作って、そのトップに貴方を据えるって、噂が出ているわ」

「はい!?」

「もちろん、王太子と結婚させてね。宗教関係者の結婚は禁止されてたけど、新たに設立するなら、ルールだって変えられるわ」


 何てこった。


「でも、これは苦肉の策でしょうね。本音では、王家は新しく管理しやすい教会を作るのに、トップを外様の貴族に任せたくない。だから、王太子との結婚が必須。名声だけ借りて、他は自分たちでやりたいのでしょう。……あら、貴方、すっごく嫌そうな顔ね」

「当たり前だろ。そりゃ、嫌だよ」


 生まれ育った公爵家から切り離して、王国教会に、権限を持たせないお飾りにってことだろ? 冗談じゃない。


「貴方のとれる手は2つ。1つ目は、宗教関係者は結婚するべきではないと言って、王太子との結婚を拒みつつ、王国教会に入る話をグダグダにしていく。もう1つは、私のことが好きだから、絶対に私と結婚するとゴネて公爵家を継ぐ」

「ごふっ、ごふご……」


 紅茶が喉に……。何を言い出すんだ!


「教会に入る素振りを見せながら、王女と結婚しないのは、お勧めしないわ。暗殺されかねない。貴方の力は素晴らしいけど、それだけに、影響力が強くなりすぎる。さっさと公爵家を継いで、公爵家の力で身を守るべきね」


 それは、そうかもしれないけど……。


「今日来たのは、俺とナディアの婚約について、話したかったからだ。王家の強引な申し出に対抗するのに、協力してくれたことには感謝する。ただ、俺は、ナディアは侯爵家を継ぐべきだと思う。その才能を十分に発揮するには、生まれ育った侯爵家にいた方がいい」


 俺は前世でのナディアの活躍を知っている。その力を発揮するチャンスを、俺が奪うのは嫌だ。


「あら、貴方までそんなことを言うの? せっかく、何とか一族を説得できたと言うのに」


 説得?


「私が、貴方との結婚を希望したの。貴方に私の家族を納得させられるだけの能力があって良かったわ」

「何を考えて……。ルヴィエ家とうちは、領地もかなり離れている。外国に嫁ぐようなものだ。そのまま家にいたら、侯爵家を継げるんだぞ?」

「私、自分の直感を大切にしてるの。それに、貴方ほどの美男子と結婚できる幸せな娘も、そうそういないでしょう」

「か……顔で男を選んで、人生を決めてしまうなよ……」


 ガクッときた。ああ、でも、ちゃんと言っておかないと。


「俺の外見の、半分くらいはまがい物だ。さらに、治癒能力と聖属性の力は、完全に借り物。以前にリヴィアン島でリヴァイアサンが言っていたから、知っていると思うけど……」


 俺の容姿への評価は、前世と今世で差がありすぎる。<システム>によって何らかの補正がかかっているはずだ。それに、あの島で会った海龍は、ハッキリと俺の力を借り物だと言っていた。


「貴方に特別な力を貸した存在がいる。貴方はそれだけの存在から、使命を受けているのよ。私はそれを手伝いたい」

「ナディア……」

「パメラの、サティ家はうちの領地の隣。何があったか、ある程度は把握しているわ。貴方は何度も、多くの人々を救ってきた」


 真剣な顔をして話していたナディアは、そこでフッと微笑んだ。


「でもね、貴方、危なっかしいのよ。マルク・サルミエントに連れ去られたのは、最たる例だけど、他にも色々。今だって、王家に取り込まれそうになっているのに、私の助けを拒むし」

「それは……、ナディアの人生が天秤にかかって……」

「貴方は、公爵家の嫡子にしては、自分の扱いが軽すぎるのよ。どうして?」


 微笑むナディアはきれいだった。

 俺みたいな、まがいもののキラキラじゃなくって。

 彼女には、本当のことを言わなければならない。

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