公子、犯行動機を推理する
目が覚めると、次の日の午前中だった。
気分はスッキリしていて、魔力も充実している。
部屋にヴァレリーを呼んで、冬休みまで学園を休む手続きを頼んだ。しばらくは<浄化>にかかりきりになると思う。
その後、教会に向かうと言ったら、ヴァレリーがついてくると言い出した。
レオ、ギルベルト、ヴァレリー、カティア。いつものメンバーが付き添うことになった。
教会に入ろうとすると、入り口で王家の騎士に止められた。
「ここは、王の許可のある方以外、入ることはできません。お引き取りください」
「奥にある闇の
「なりません!」
「通せ! 闇を放置すれば、王都が大変なことになるぞ!!」
騎士たちを一喝した。
正直、これで通れるとは思っていなくて、またナディアにでも策を考てもらおうと、心の中では思っていた。だが、なぜか彼らは道を開けてくれた。
騎士たちは、信じられないものを見るように、俺を見つめていた。拝んでいる者までいる。
もしかして、<求道者>レベル70の影響力って、だいぶんヤバいのかな。
地下に到着すると、皆、顔をしかめた。
昨日、牢の中にいた者たちは外に出されたようだが、立ち込める瘴気に変わりはなかった。
俺はまず、皆に<聖守護結界>をかけて、闇属性の影響を抑えた。
「どうして、教会の地下にこんなものが……」
眉をひそめながら、ヴァレリーが疑問を口にした。
「おそらくだけど、教会は病人の治療に、闇属性を使っていた」
俺の<免疫操作>の使いにくさと、教会が決して外部に治癒魔法の技術を漏らさなかったことからの推測だ。
「以前に、マルク・サルミエントが、俺の治癒能力は教会の治癒術士に劣ると言っていた。病人の治療に関しては、それが事実だったんだ。俺の治癒能力では、患者の体内の異物を除去できない。毒や病原菌の処理は、人間の身体が持つ免疫任せだ。だから、効率が悪い」
「教会の治癒魔法は、セリム公子の能力と異なると?」
「教会の治癒術士は、いつも2名以上で治療していたそうだ。1人は治癒術士、もう1人は闇魔法使いだったんだろうな。闇属性は、停滞と不活性の魔力だ。その力で毒や病原菌を抑えこみ、治癒魔法で回復する。そうすれば、俺より簡単に、あらゆる病を治せただろう。だから、教会は闇魔法使いを必要とした」
「そんな……」
「闇属性を使えるようになる方法は複数ある。秘されているが、上位貴族レベルでは知られている。ここでは、生贄を捧げて、闇のシンパになる方法をとっていたようだな」
悪魔が背後にいない、自分の持つマナを闇属性に変換する闇魔法使いというのもありうる。その場合、さほど強い力にはならない。だが、闇属性は人間の嗜虐性や攻撃性を高め、次第に闇魔法使いはコントロール不能になってしまう。デメリットが大きすぎて、各国で闇属性の習得は禁止されていた。
しかし、もし闇属性が、不治の病を癒す技に使えるなら、危険でも人間は手を出そうとするだろう。おそらくその方法を、教会は開発したんだ。
「闇属性は悪魔と繋がっている。たとえ、最初の目的が病人を救うためでも、闇の影響を受け続ければ、まともでなくなる。王都の地下に、これだけの闇魔力をため込むほどにな」
牢の中の人たちは、教会の者が闇魔力を得るために、使われていた。
もっとも、集積された闇の力の量を考えると、人殺しの生贄は起点にすぎない。目の前の闇の塊は、それをもとに、人口の多い王都が抱える負の感情をため込んだものだと思う。
「それでは、<浄化>を始める。この闇の炎を全て処理するには、2、3週間はかかる。その間、俺は<浄化>にかかりきりになる。後のことは皆に頼む」
明日起きたら、ナディアにも手紙で事情を説明して、何かあったときのフォローを頼んでおこう。
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