第8話 アドリーvs学年一位
〜グレゴーラ視点〜
「あは……あはははははははははははは……」
もう笑うしか無いような状況。
すべてが取り返しのつかない状況。
この先、なけなしの一勝を稼いでも、逆転することはない。
――結果を出したほうがいい先生、結果が出なけりゃ悪い先生。どっちが上と下なのかはっきりさせましょう
ツクモの言葉を思い出す。
「あああああああああああああああああああああーーーーーー!!!!」
頭をガリガリ掻きむしった。
そして長い私の髪の毛を引きちぎりながら叫んだ。
あのゴミどもから与えられた屈辱と怒り――どうやって収めればいい?
たとえ1万回ツクモを殺したって、私はあのゴミどもを許すことが出来ないでしょう。
「みっともないですよ。グレゴーラ先生」
突然、クラスの一人から声を掛けられた。
「……マキヤくん」
美しい金髪の美男子が堂々と私に話しかけた。
マキヤ・クロスロード――成績一位の秀才。
その実力は十年に一人の魔法の天才と評される。
高位な家柄であり、才色兼備であり、完璧超人でもあり、この私、グレゴーラの最高傑作でもあるけど――
「僕は4年前から忠告したはずです。Gクラスの存在の危険性を。……もしも、彼女らが在籍してる間に力を身に着け、同学年にも引けを取らない実力を示した場合、僕ら普通のクラスの存在意義が危ぶまれると」
マキヤは私に意見してなお、グレゴーラクラスに残ることが許され、かつ成績1位の座を守り続けた唯一の生徒でもあった。
「……何が言いたいのかしら?」
「最後の試合、僕を出してください。彼らと戦ってみたいのです」
「戦ってみたい、ねぇ……ええ、もちろん。最後の試合はあなたにお願いするわぁ」
生意気な坊や、だけどその実力だけは信頼できる。
唯一、私に残った希望は、彼だけ。
「はっきり言うけど、もし、これでマキヤくんが負けてしまったら、私は君たちにとっても最悪の決断をしなくちゃいけない……あなた、本当に勝てるのかしら?」
「実力勝負に絶対なんてありませんよ。だけど僕は、グレゴーラ先生や他の奴らみたいに気を抜いた戦いなんてしません」
マキヤくんははっきりと、この私に言った。
「……そもそも今回の敗因はGクラスとツクモ先生を舐めていたあなた達の傲慢さだ――というかそれ以前に4年前、Gクラスなんてものを作って、あんなに才能あふれる彼女たちをそこに閉じ込め、虐げ続けたことが間違え――」
「黙れぇ!!!!!!!」
今なんて言った?
ふざけるなよガキ。
「間違いですって? 私の崇高な理想が? ――なんにも分からないガキが知ったような口をよぉく聞けたわねぇ?」
さすがに、マキヤくんもこれ以上の言い争いは不毛だと気づいたのか、「……失礼しました。グレゴーラ先生」と言った。
「それでは試合が始まりますので、僕はこれで」
「……ええ、どうぞいってらっしゃい」
マキヤくんは金髪をなびかせて、観客の前に向かった。
〜ツクモ視点〜
「ようし、3連勝だーーー!!」
ビアンカが叫び、「いえーい!」とアドリー、シィ、ディアが続いた。
確かにここまでは順調だ。
「最後はアドリーの試合だけだ。だけど気を抜かないでくれ……おそらく次に出るだろう相手は学年一の成績の持ち主だ」
俺は学年一位――マキヤの実力はかなりのものであると分析している。
前までの彼女たちなら手も足も出ない相手だ。
「だがな、アドリー。今の君なら、そんな相手でも互角以上に戦える」
「……」
「そしておそらく、最後に勝負を決めるのは――心だ。諦めなかったほうが勝つ」
「はい!!」
アドリーは力強く返事した。
「それでは行ってきます! 先生!」
「ああ」
そうして、アドリーは観客の前に出た。
〜アドリーVSマキヤ〜
同時に二人は観客の前に立つ。
観客はマキヤの姿が現れたことで、黄色い歓声が上がる。
「きゃー! マキヤ様!」
「ようやく学校一の天才の登場か!」
Gクラスの快進撃すらも忘れてしまうほど、誰もがマキヤの存在に一目置いていた。
そんなことをマキヤ本人は気にせず、アドリーを見据えた。
「君たちはすごいよ」
「?」
試合開始直前、観客たちの前で、マキヤはアドリーにそう話しかけた。
突然の称賛に、アドリーは最初何を言ってるのかわからなかった。
「あれだけ周りから迫害を受けながらも、君たちGクラスはここまで勝ち上がり、僕と同じ舞台に上がることが出来たなんて、素晴らしいことじゃないか」
(……なんかバカにしてそうで、気持ち悪いなあもう!)
純粋な称賛かもしれないが、アドリーから見れば、加害者側の上から目線に他ならなかった。
「僕は君を甘く見積もるなんて真似はしない。――本気で行かせてもらう」
「!!」
アドリーは背筋が凍るほどの恐怖を感じた。
(すごい……とてつもない力だ……)
逃げ出しそうになるほどの力、だがしかし――
――アドリーには、前を向いてほしい。たとえ怖くても。正々堂々と。俺は見守ってる。ビアンカ、シィ、ディア、3人も仲間がいる
夢の中で聞いたツクモ先生の言葉が、アドリーに前を向かせた。
「かかってきなさい!! 相手になるわ!!」
アドリーは、正々堂々と叫んだ。
そして、試合開始と叫ぶ審判の声が聞こえた瞬間――お互いが同時に魔法を詠唱した。
「中級魔法スプラッシュウォーター!」
アドリーの手から水がまっすぐ――水の柱となって、マキヤの方に放出される。
しかし、マキヤが唱えた魔法によって、阻まれることになる。
「上級魔法――グレータースプラッシュウォーター」
マキヤの手からアドリーのスプラッシュウォーターよりも太い水の柱が発射される。
そして互いの魔法がぶつかりあった。
「くぅっ!」
アドリーの口から声が漏れる。
(これが上級魔法! なんて強い魔法なの! このままじゃ押しきられちゃう!)
「――なんだと……?!」
マキヤは驚嘆する。
(相手のスプラッシュウォーターを押しきれないだと?! こっちは上級魔法だぞ!)
マキヤは小学生(エレメンタリー)でありながらも上級魔法が使用できる逸材だった。
これまで何度も対抗戦を行なったが、どの勝負も、上級魔法一つで相手を押しつぶしてきた。
故に同級生相手でこんなことは初めてだった。
「はああああああ!!」
「うおおおおおお!!」
バン、とお互いの魔法が弾け飛んだ。
アドリーは押し負けることなく、上級魔法を相殺するまで耐え抜いた。
観客は、自分たちの想像を超えたレベルの試合に歓声が上がる。
「ふ……やりますね。Gクラスの――アドリーさん」
マキヤは初めてアドリーの名前を呼んだ。
自分にふさわしい相手と心から認めたからだ。
「……中級魔法――」
アドリーはマキヤの言葉を無視して、詠唱に入る。
「まあいいでしょう。今は勝負に集中です。上級魔法――」
マキヤは先程のグレータースプラッシュウォーターではなく、別の魔法を唱えた。
「スプラッシュウォーター!」
「グレータービッグストーン!」
互いの魔法がぶつかり合うが、マキヤのグレータービッグストーンのほうが明らかに押していた。
(魔法には相性関係がある。水魔法には土魔法――こっちのほうが有利だ)
属性は4つに分けられ、それぞれに相性が存在する。
火←水←土←風←火……といった具合だ。
大人の人よりも更に大きい巨大な岩が徐々に、アドリーに迫っていく。
がしかし、追い詰められる寸前であっても、アドリーの瞳から闘志の炎が消えることは無かった。
「こんなので私は負けたくない!! 負けられない!! 絶対に勝ちたい!! ビアンカ達のため――!! 大好きなツクモ先生のために!!」
アドリーのスプラッシュウォーターの威力が更に上がった。
そして、寸前まで迫っていたグレータービッグストーンに、ヒビが入る。
「ッ! なんだと!?」
マキヤの顔に動揺の汗が流れる。
そして――ついに、グレータービッグストーンがスプラッシュウォーターによって破壊された。
石と水の雨あられが会場に降り注ぐ。
「チィ! だったら中級ま――」
マキヤは魔法を唱えようとした瞬間、アドリーがこちらに突っ込んで走ってくる姿を見た。
(何をする気だ!!?)
マキヤは距離を取ろうとしたが、すでに、アドリーはマキヤの顔に手を伸ばしていた。
「もがぁ!」
アドリーの手のひらで、マキヤの口を塞いだ。
「正直あなたのこと興味無いの! 馴れ馴れしく私に話しかけないで! 初級魔法――」
――これはツクモ先生が教えてくれた、最初で特別な魔法――私を救ってくれた魔法。
「ウォーター!!」
マキヤの口いっぱいに、大量の水が流れ込んだ。
「もががががががががが!!! ゲボゲボゲボゲボゲボゲボ!!!」
マキヤは白目を向いて倒れ込んだ。
あまりの番狂わせに、騒然となる会場。
数秒遅れで、審判は勝者の名前を呼んだ。
「勝者、Gクラス、アドリー・サシャ!!」
――本当にやったの、私
アドリーは涙をボロボロと流した。
Gクラスの席を見ると、仲間たちも泣いていた。
先生も喜んでるのか、晴れやかな笑顔だった。
「私、やったよ――」
そして、感極まって、アドリーは叫んだ。
「みんなーーー! せんせーーーー! やったよーーーー!!」
アドリーはみんなの方へと走った。
―――――――――――――――――――
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