第10話 到着した矢先がこうなるとは
『キラーン、ドカーン!!』
「あいててて……」
ワープリン、着地失敗。
僕は雲の彼方の切れ間から飛び出し、頭からシャベルのように、砂場へと真っ逆さまに突っ込んでいた。
えっ、両親が
「あれ、ここはアリエヘン村じゃないぞ?」
到着した場所は故郷の土ではなく、違う場所の土だった。
そう言えばワープリンは移動者本人による頭の中のイメージで目的地に移動すると耳にした覚えがあるけど、過去に行った場所などで印象が強く残っていたら、そこに間違えて移動する説があるのを思い出す。
このワープリンの失敗呪文を別名パープリンとも呼ぶ。
目的地に移動できるワープリンとは違い、ただ移動するパープリンは魔法力をほとんど使用しない初期移動呪文で、大陸を楽に移動する大道芸人やらのお遊び
「──ここはあの神殿か」
どうやら僕はあの『マホーアイランド』に着いてしまったらしい。
この場所は非力な僕が何とかちからをつけるため、呪文を覚えたくて契約をしに、遥々訪れた島。
サクラが唱えてくれた呪文とはいえ、ここの
「しかし、船もないのにどうやってここから移動するんだよ」
ここは周辺を海で囲まれた孤島。
ワープリン系の呪文が使えないとなると、船でもない限り、ここの島からの脱出は不可能だ。
……かと思いきや、またワープリンの草がないかと探し回ってみてもその草らしき物は一向も見つからない。
あの時、貴重な草だからとミヨと一緒に、ここいらのワープリン草は摘み取ってしまったからな。
その行為が今となって裏目と出た。
僕は神殿をグルリと回り、辺りに何かがないか隅から隅まで調べてみる。
だけど小一時間探し回ってみても、何も発見できない。
よく冒険漫画とかの展開だと、神殿の床とかに隠し階段や通路とかがあっても不思議ではないが……。
虚しいほどに何もない……。
──しばらくして、夕焼けに辺りが染まり、神殿の壁面は夕日に照らされ、赤く輝いていく。
それに伴い、神殿全体が熱を帯びたように赤くなる。
不思議になって中の様子を覗くと、あの魔力の
『ザザーン、ザザーン!!』
外から穏やかだった波の激しい音が響いてくる。
気になって外に飛び出した瞬間、僕の脳裏に信じられない現象が焼きついた。
「こりゃ、たまげたな」
島から海の中心が剣で斬ったかのように割れていて、その中心の箇所に人が通れる道ができていた。
夕日の光が神殿の水晶に照らされるとできる海を切り分けた通路。
こうでもしなければ、この島へは船を持っていないと呪文が習得できない、そう考えたゆえの策略だろう。
(問題はどこに繋がっているかだけど……)
北へと続く先には何かしらの大陸がありそうだが、少なくともアリエヘン村のあるオスットラリア大陸には繋がっていないみたいだ。
これは残念ながらミヨたちとの合流もできそうにもない。
まあ、いつかは再会できることを願って……。
「……となると、この先は未知の大陸か」
僕は、その開けた道に足を踏み入れながら、新しい大陸への憧れを秘め、優雅に渡ってみせるのだった。
****
「ジンー、無事で良かったです!!」
海の道を渡り終え、短い雑草が伸びた赤茶けた大地を踏みしめると、どこかで耳にしたことのある声が聞こえてくる。
この声はミヨか?
先に歩を進めると見知ったメンバーと落ち合いする。
まあ、会う約束などした覚えもなく、偶然にも再会したなと薄々感じていた。
「おお、ひさしぶりだな、兄ちゃん。元気だったかい?」
「よう、ミヨ、ケイタ。船もないのにどうやって、ここまで来たんだ」
一瞬、過去に大陸を冒険していた親父によるワープリンの呪文かと思ったが、ミヨ達のみで親父の姿だけはどこにもない。
ここ数年も親父は僕を育てるため、アリエヘン村の大陸から出かけたことがないので、危険な賭けでもある。
もし、馴染みの大陸にワープリンで着いたとしよう。
だけど、その大陸が魔物によって侵略されていたら、どうなるだろうか。
己よりも強い魔物と遭遇し、またワープリンで逃げようとしても、頭の中が焦りで混乱し、目的地に戻れない可能性もある。
現に前回、親父は間違えて魔王城に着いてしまったほどだ。
さらに着いた先が、もし呪文が使用できない空間だったら……。
そう思うと待ち受けるのは絶望しかない。
ワープリンは便利な移動呪文の反面、使いどころが難しいのだ。
「実はな、話は長くなるんけどさ……」
「……オオゲサ王国の地下牢に隠し階段があって、そこから地下通路を歩いて来たんだぜ」
ケイタの長話は秒速で
要件を短く詳しく捉えていて、素晴らしい説明だ。
君には脚本を製作する魔法使いに向いているかもな。
「それでさ、万が一のモンスターの侵攻に備えて、海を越えた世界へとその通路を掘ったらしいけど、莫大な予算をかけて作って、後にお披露目したら意外と繁盛したらしくて、そこからの由来でオオゲサという頭文字の王国になったらしいぜ」
「そうなのか」
「というのは単なるジョークだぜ」
「そうなのか」
「ジン、さっきからその生返事は何ですか。もしかして、あのNPCキャラクター(何度話しても同じ台詞しか言わないゲームのキャラ)のつもりでしょうか?」
「そうなのか」
これ、返答が楽だな。
将来はNPCキャラの出世も捨てがたい。
もし、そちら方面に出世できたら悪いが転職して勇者を辞めよう。
選ばれた天職だけに。
「あの、自分達の話を聞いていますか?」
「
『パオーン!!』
密林からドシドシとやって来る巨漢の怪物。
その象は長い鼻を自在に操り、どこへ向かうのか……。
「違うでしょ!!」
「そうなのか」
「もう、この変な兄ちゃんは置いていこう」
「そうですね。他人のそら似でしたか」
「おいおい、空豆のそら煮はいいとして、僕は本物だぞ、ちょっと待てよ」
──僕は二人の歩く先を強引に止まらせ、今の状況を確認した。
マホーアイランドから海の道を渡ったこの先はアメリコーン大陸で、この赤土で覆われた場所はメッキシスコーン街から少し離れたメッキの荒れ地。
年中の降水量は少なく、干からびた大地からサボテンが生えた辺りの図には、長槍を持ってモンキーダンスをするよく分からない困ったちゃんな人種がいるのを想像してしまう。
たまたま行き先がミヨたちと一致していなけば、僕は今ごろ、そのメッキシスコーンの住人に囚われて、『ヘイ、ボーイ。これで君も今日からワシらの仲間!』と忠誠の証としてトカゲ料理を食べさせられたりして……。
考えただけで寒気が走る……。
「そうか、偶然が重なるとは怖いものだな」
「そうだぜ、兄ちゃんは毎回悪運が強いぜ」
「重ねるのもパンだけにしてほしいよ」
「うん、パンって、ジンはお腹が減っているのですか?」
「まあ、腹じゃなくてミヨの鋭いツッコミに精神がえぐられたけどな。さてと、どうするか……」
呑気に長話をしていたらこうだ。
周りから得体の知れない者達の気配が絶えない。
木にチョウチョにアリの集団。
合計にして約100体。
人の姿までに巨大化し、意思を持った見慣れないモンスターに僕は逃げの手を決めようと考え込む。
「兄ちゃんには戦って道を切り開こうとする考えはないんだな」
「いえ、木のセイダヨに、ハバタクガ、ナンデモアリ。ジンのレベルで真っ向勝負で勝てる相手ではないですね。ちなみにジンはあれからレベル上げはしましたか?」
「いんや、レベル1のままだ」
「兄ちゃん、それやばいって」
「しょうがないだろ、武器もなくて丸腰なんだからさ」
「はあ、この人は本当に勇者なのでしょうか」
「まあ、中には臆病者の風に吹かれた勇者もいるさ」
「もう、開き直らないで下さい」
『ククク、いい気味デスネ』
それらのモンスターの軍団を束ねているらしいお
その正体は鯛のお頭ではない。
「お前は、ラリ・ルーか!!」
『いえいえ、キル・ユーデスヨ。久しいですネ。まだ生きているとは思いませんデシタ』
僕の名前の言い間違いにも大した素振りを見せないキル・ユー。
いや、冷たき仮面を付けているから理解不能であって、その裏の顔は殺戮鬼のような形相かも知れない。
魔王の配下なんだから名刺とか作ればいいのに。
それならスムーズに名前を覚えられるのにさ。
『でも、この大陸でアナタたちは骨を埋めるのデス。いくら勇者ご一行でもこれだけのモンスターの数に耐えられるはずはないデスカラネ……』
「……ということは何だ?」
僅かな望みに期待して、僕の逃げ足の体勢がピタリと凍りつく。
『ククク。皆の者、カカレ。今日、ここで勇者たちの侵攻をトメロ!』
キル・ユーの
やっぱり声のトーンからして、落ち着いてるようで絶対怒ってるよ、この人……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます