57話 ウォタvsオーディン
ウォタはニヤリと笑うと、物音を立てることなく姿を消した。対するオーディンも、戸惑うことなく先回りするように視線をスッと右に向ける。
一呼吸遅れて、視線の先にウォタの姿が現れた。しかし、自分の動きが予測されていたことに驚くことなく、ウォタはオーディンに向けて拳を放つ。
「スピードは…なかなか…」
オーディンはそうこぼしながら、少しだけ上体を後ろに逸らしてウォタの拳をかわすと、その体目がけて蹴り上げる。
鈍い音と共に打ち上げられたウォタだが、両腕で防御しおり、その間から見える顔は楽しげだ。
「まだまだぁぁぁ!」
空中で体を捻り返し、着地と同時に再びオーディンへと飛びかかる。対するオーディンは、その様子に小さくため息をついた。
再び、右拳を放つウォタ。
オーディンはそれを手のひらでいなし、ウォタの左側は回り込むと、再び下から蹴りを放つ。
…が、ウォタは体を前転させてそれをかわすと、着地した足を軸に蹴りを放ち返した。
オーディンは少し驚いた。
(先ほどより、動きが良くなった…?)
そう考えながら、ウォタの蹴りを半身でかわし、手に収束させた黒いオーラをウォタ目がけて撃つ。しかし、ウォタも青いオーラを発動させてそれを弾き飛ばすと、一度オーディンとの距離を取った。
静かに自分を見据えるオーディンに対して、ウォタは笑が込み上げてきて止まらなかった。
「…気でも触れたか?それとも、もともと頭がおかしいのか?」
「ククク…いや、大変失礼しました。これほどまでにヒリヒリする闘いは久方ぶりですので…」
「そうか…アマテラスのおもちゃは、争い好きで有名だったな。」
「ハハハハ!あの御方が一番好きですからな!」
ウォタは自慢げに胸を張って笑う。
その態度に、オーディンも何やら面白そうな表情を浮かべている。
「兄様が…楽しそう…」
「だな…あんな兄貴、久しぶりに見たぜ。」
ヴェーとヴィリは少し驚いた様子で、オーディンを見ていた。
「さて、御方よ!あまり時間もないのでは?」
そう問いかけるウォタに、オーディンは変わらず無表情で答える。
「まぁな、お前たちはほど暇ではない。」
「ならば…もう少し戯れましょうぞ!」
ウォタが言ってることは矛盾しているが、それでもオーディンは小さく「いいだろう…」と呟いて、ウォタを迎え撃つ構えを取った。
睨み合う両者の間に、風の音だけがこだましている。
その雰囲気に、ヴェーとヴィリも固唾を飲んで二人を見守っている。
と、突然オーディンが小さく呟いた。
「こちらから行こう…」
その言葉にヴェーたちは絶句する。
この闘いも然りだが、悠久の時間を一緒に過ごしてきた妹弟たちは、格下相手に先に動く兄の姿を見たことがなかったのだ。
ーーーそれだけ…本当に…兄様は楽しんでおられる…?
ヴェーは兄の表情をチラリと見る。
相変わらず、その真意を読み取ることはできないが、青い竜種と向き合うその姿は、普段とは違う雰囲気を纏っている気がした。
相対する竜種が、相変わらず楽しげに笑っている様子には虫唾が走るが、それでも兄が喜んでいることにヴェーは口だけ笑っていた。
「御方よ!本気でいかせていただきますぞ!」
「無論だ…そうでなくては意味がない…」
その言葉に不敵な笑みを浮かべると、ウォタは全身に青いオーラを発現し、オーディンへと飛びかかった。
・
「お!いたいた!」
イノチは、フレデリカたちの姿を見つけて駆け寄った。
フレデリカは男を一人担ぎ上げたところで、アレックスがイノチに気づいて手を振っている。
「フレデリカさん、BOSSとエレナさんが来たよ♪」
「ん?あら…早かったですわね。」
「まぁね。フレデリカたちも無事で何より…」
その言葉に、フレデリカとアレックスは顔を見合わせた。
「何が無事で何より…です。わかっててやったことでしょう?白々しいですわ。」
「そうだ♪そうだ♪こんなに強くなれるなんて、思ってもなかったよぉ♪」
二人が呆れた顔を浮かべる中、イノチは「え?そんなに?」と、ちょっと驚いている。
そんな三人にエレナが口を開いた。
「なんでもいいけど、さっさとウォタを追いかけましょうよ!」
「なんでもいいって…目の前にお前の親父さんがいるのに?」
エレナの態度に少し引き気味のイノチ。だが、エレナは腕を組んでこう告げた。
「別に全然気にしてないわ!あたしにとって、ランドール家なんてくだらないしがらみ、もはやどうでもいいもの!」
フンッと鼻を鳴らし、不満げにそっぽを向くエレナ。その姿からは、今まで以上に傲慢さと我儘さが見て取れた。それに気づいたフレデリカが、イノチへこっそりと耳打ちする。
「BOSS…エレナに何かしました?」
「え…いや、ちょっといろいろと強くなれるように…」
「イジった…のですわね?」
イノチはこくりと頷いた。
「うわわぁ〜!BOSS…エッチだぁ♪」
「そういう意味じゃないって!」
アレックスにツッコミを入れるイノチ。その横で呆れているフレデリカ。そんな三人に、エレナは訝しげな顔を向けた。
「何してんのよ!さっさと行くわよ!」
「はっ…はい!」
ビクつくイノチ。
楽しげに敬礼するアレックス。
そして、呆れたままのフレデリカ。
三人は、ウォタたちがいる屋敷に西側へと向けて、歩き出した。
・
「クハハハハハ!!!」
「……」
一方で、ウォタとオーディンの闘いは、その激しさを増していた。
もちろん、戦況はウォタが押されており、少しずつダメージを受け始めている。しかし、青き竜はその手を止めることはなかった。
止められようが、カウンターを受けようが、思い切り蹴り飛ばされようが、笑いながらオーディンへと立ち向かっていく。
その姿は、まさに戦闘狂…バトルジャンキーとして相応しいほどに、戦いに興じているのだ。
それを見ているヴェーたちは、もはや驚きを通り越して呆れていた。
「御方よ!!さすがですな!クハハハハ!!」
ウォタはそう言って、着地後すぐに体のオーラを手に収束させ始める。オーディンもそれに合わせるように漆黒のオーラを手に纏い、ウォタを静かに見据えている。
「本気で撃ちますぞぉ!!」
そうウォタは叫ぶと、巨大な水竜の形を模したオーラをオーディン目掛けて撃ち放った。対して、オーディンも真っ黒な馬の形を模したオーラを撃ち返す。
轟音と共に互いに向かって突き進む青と黒のオーラがぶつかり合った瞬間、強大な衝撃波が辺りを襲った。
「がぁぁぁぁぁ!!」
必死に押し込むウォタと、涼しげにそれを押し返すオーディン。対照的な二人だが、その決着はすぐについた。
漆黒の馬が青き竜を飲み込むと、ウォタ目がけて一気に駆けていく。そして、高く跳躍したかと思えば、大きな黒雷となって撃ち下ろされた。
それを見上げたウォタは、満足げにニヤリと笑って目を閉じた。オーディンもそれを静かに見守っている。
そして…
雷轟とともに、漆黒の雷がウォタを飲み込んだのだ。
オーディンは未だにその様子をジッと見据えていたが、ヴェーはそれを見てホッと胸を撫で下ろす。
ーーー下等生物ごときが兄様に勝てる道理など、微塵もないのだ。己の過ちを悔いて、この世界のシステムの糧となれ。
だが、そう考えていた矢先、オーディンの黒雷が突然消えた。
何事かと目を見開いたヴェーだが、突然、人間の声が聞こえてきて、さらに驚いた。
「何やってんだよ!ウォタ!!」
その声の方に顔を向ければ、そこには偉そうに立つ三人の女と、少し焦った表情を浮かべた男が一人立っている。
だが、ヴェーはそれ以上にあり得ない光景を目の当たりにした。
その男が開いているある画面…それは神しか開くことのできないシステム画面だったのだ。
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