54話 神の意地


「一瞬で…終わらせる…」



ヴェーは紫のオーラを纏ったまま、ミコトへと飛びかかった。同時に、未だ姿を見せない屍士が操っている執事たちも、一斉にミコトへと飛びかかる。


それに対して、ミコトも瞬時に真紅のオーラを発動。



「はぁぁぁぁ!!」



気合いと同時に、ミコトの周りにバレーボール大の炎の球体が無数に現れる。そして、拳を振り抜くとそれらが放たれて、執事たちを吹き飛ばした。


口笛を吹いて、称賛するヴィリ。

だが、それを気にすることなく、ミコトは背後に感じた殺気に向けて蹴りを放った。


ーーー手応えは…ない…


当てたと思われた右脚に特に手応えはない。



「読みはいい…けど、あまい…」



そう呟きながら、突如として真上から現れたヴェーは、紫色に輝きながら禍々しくうねるオーラを拳に纏い、ミコトに向けて思いっきり叩きつけた。


しかし、当たる寸前でミコトも大きく前転して、ギリギリでそれをかわす。


ヴェーの拳で今までいた場所が大きく粉砕し、周りの地面を隆起させる中、ミコトは姿を現したヴェーに対して、先ほどと同じように無数に出現させた炎の球体を、拳に乗せて撃ち抜いた。


だが、ヴェーは再び姿を消してしまい、無数の炎は少し離れた場所で大きく爆ぜる。



(また消えた…動きは私より早いし、あの拳の威力もかなりのもの…このままではジリ貧かな…)



再び動きを消したヴェーに対して、ミコトは視線だけを動かして気配を感じ取ろうとする。


しかし…



「…その先入観…実践不足…」


「え…?」



突然、足元から声が聞こえたかと思えば、地面が割れて真下から姿を現したヴェーが紫色のオーラを撃ち抜いた。



「くっ…!」



ミコトは咄嗟に回避を試みるが、間に合わずオーラの衝撃をモロに受けて上空へと吹き飛ばされる。

辛うじて防御はできている。そう安堵しつつ、次の攻撃に備えらために体制を整えようと、視線をヴェーがいる方へと向けたミコトは驚いた。


すでに先ほどの場所にヴェーの姿はないからだ。



(まずい…!!)


「さよなら…」



その予想が当たる。

そして、真後ろから聞こえてきたヴェーの声にミコトが振り向こうとした瞬間、脇腹に強烈な衝撃を感じた。



「がっ…はぁっ……!!」



うめき声をあげながら、ミコトは一直線に吹き飛ばされて地面に激突…する寸前に、すでに回り込んでいたヴェーに空高く蹴り上げられてしまう。


吹き飛ばされては回り込まれ、また吹き飛ばされる。


それを何度も何度も繰り返し、最後にミコトの体を今までで一番高く打ち上げたヴェーは、一瞬でミコトの行く先へと移動すると、最大出力のオーラを拳に集中させた。


キーンッという収束音が鳴り響く。



「おいおい…マジかよ。あいつ、どんだけキレてんだ…?」



それを見ていたヴィリが驚いた声を上げる。それほどまでに、ヴェーは本気の一撃を放とうとしているようだ。



「一瞬で終わらなかった…それは称賛…でも…これで終わり…!」



珍しく語気を強めたヴェーは、自分に向かって飛んでくるミコトの背中に視線を集中させる。


そして…



「滅天惡( メテオ )…」



そう告げた瞬間、ミコトの背中に向けて収束させたオーラの塊ごと拳を叩きつけたのである。


鈍い音と共に、まるで音速すら超えるかのようなスピードで、ミコトの体は一直線に地面へと叩きつけられ、その衝撃は地面を大きく砕き、隆起させた。


巻き上がった砂埃の前に降り立ったヴェーは、その煙が晴れていくのを静かに見つめている。



「いくら何でもやり過ぎじゃねぇか?」



いつの間にか横にいるヴィリがそう尋ねるが、ヴェーは首を横に振った。



「これくらいじゃ…収まらない…本当なら…もっと…」



だが、ヴェーがそこまで告げた瞬間、煙の中からとてつもないほどの存在感が放たれる。そして、巻き上がっていた砂埃は、突然吹き荒れた暴風に一気に吹き飛ばされていった。


強い風に手で顔を覆いつつ、晴れていく視界の中にヴェーはあり得ない光景を確認した。



「な…」


「…んだよ、あいつは。」



隣にいるヴィリも驚きを隠さずに、口をパックリと開けている。


二人が見る先には…

そこには、先ほどよりも深い真紅のオーラを全身に纏い、仁王立ちしてこちらを見ているミコトがいたのだ。



「何でただのプレイヤーがこんな力を出せんだよ…」



ヴィリがそう言ってチラリとヴェーへ視線を向けると、彼女の額から一筋の汗が頬へ伝うのを見た。そこには、ヴィリが今まで見たことのないヴェーの表情が浮かんでいた。



「この…力…あり得ない…」



ヴェーはそう小さくこぼしたが、それもそのはずだろう。今のミコトから感じる力は、完全に自分達を凌駕しているのだから…


全身を針で刺されているような感覚に陥るほどの鋭いオーラ。


ーーー負ける…


神である自分達がそう思ってしまうほどに、目の前の少女から溢れ出す力には絶望を感じざるを得なかった。



「すごい…何これ…」



ミコト自身も自分の変化に驚いていた。ここにくる前に、イノチに言われた言葉が蘇る。


ーーーリミッター外しとくから…制限時間無制限でね。切り札としてカッコよく使っちゃって!


イノチは笑ってそう言っていたが、これは予想をはるかに超える力だ。そして、これにはゼンも驚きを隠せないようだ。



『これは…何という力か…!ミコトよ、イノチの奴はいったいお前に何をしたのだ?』


「わ…私もよくわかんないんだけど…イノチ君がいうには"ランクシステムを完全に排除して、そこに自分の意思でステータス値を上げ下げできるよう書き換えた"とかって…」


『う〜む、私にはさっぱりな内容だな…』



その説明に、ゼンは肩をすくめたような声色をあげた。ミコトはそれに笑みをこぼしつつ、再びヴェーたちへ視線を向ける。

彼らも自分の変化に驚いているようで、離れていても焦っている様子が窺える。



『ミコト、さっさと終わらせてイノチを問いただすぞ!』



ゼンの言葉にミコトは頷いた。



「そうだね!こんなの聞いてないもんね!」



そして、ヴェーとヴィリに向けて大きく叫んだ。



「今度こそ終わりにするよ!覚悟してね!」



ヴェーたちがたじろぐ中、ミコトは「よぉし!」と気合を入れて、両足に軽く力を込める。そして、タンッと地面を蹴った瞬間、体当たりのような形でヴェーを吹き飛ばしてしまったのだ。



「あ…れれ…?力の加減が…」



ミコト本人は、予想していなかった自分の動きに戸惑っているが、一瞬で間合いを詰められ、仲間をあり得ない力で吹き飛ばしたミコトに対し、ヴィリは恐怖を覚えていた。


しかし、彼にも神のプライドがあったのだろう。

ヴィリは目の前に立つミコトに、咄嗟に蹴りを放った。ドカッと鈍い音がして、ミコトの首元にヴィリの足がめり込むが…



「ぐあぁぁぁ!!」


「うそ…今の…全然痛くない!」



ケロリとして喜ぶミコトの前で、ヴィリは苦痛に顔を歪め、足を抑えてよろけてしまう。



(なんだ、こいつの硬さは…!?)



そう考えながら距離を取ろうとした時、後方から吹き飛ばされたヴェーがよたよたと姿を現した。だが、確実に大きなダメージを受けているヴェーの姿に、ヴィリは足を引きずりながら駆け寄って声をかける。



「おい、ヴェー!大丈夫かよ!」


「大…丈夫…な…わけ…ない…」



そう言いつつも、ミコトを睨むことを辞めないヴェー。

そんな視線を受けて、ミコトも強い眼差しをヴェーに向けた。



「勝てないことがわかったでしょう?次で終わりにするから…」



その言葉にヴェーは怒りを深めた。

そして、ボロボロの体に鞭を打つようにこう叫ぶ。



「私は…!負けない…!オーディン一族は…不滅…!!」



その瞬間、ヴェーはミコトに向かって飛びかかった。

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