15話 正体…


アカニシはセイドの裏切りに驚いた。



「セイドの野郎!何やってやがる!!」



セイドのスキルにより足止めさせられている団長を見て、アカニシは無意識に自らの足をそちらへ向けていた。


しかし、自分たちのリーダーの危機を察知して救出に向かおうとしたアカニシの前に、ケンタウロスが立ちはだかる。



「どこ行くんだ?まだ勝負はついちゃいねぇぜ!」


「ちっ!どこまでもうざい奴だな!どけ!テメェに構っている暇はねぇ!」



アカニシはそう叫ぶと、スキルを発動すべく手に持つロングソードで自分の腕を切りつけた。



「何やってんだ…気でも狂ったか?」



驚くケンタウロスの目の前で、アカニシの腕から真っ赤な血が滴り落ちる。


それをロングソードへと垂らすと、紋様をなぞるように血が走り渡り、今度はそれを燃やすようにロングソードが赤いオーラをまとい始めたのである。


チリチリと血液が静かに蒸発し、赤かったオーラは黒いものを混じえた赤黒の炎のように変化する。



「『エビル・レイン』!!!」



アカニシはそう叫ぶと、オーラをまとった剣を空へと振り抜いた。



「どこに向けてんだよ。」



明後日の方向へ飛んでいくオーラの波を見て、バカにしたように笑うケンタウロスだが、そのオーラが突如として空中で変化し始めたことに気づく。


そして、空中で弾け飛んだ赤黒いオーラが、今度は大きな炎の雨となってあたりに降り注いだのだ。



「なっ!」



無差別に降り注ぐ炎の雨を必死にかわすケンタウロスを見て、アカニシはロノスの元へと走り出した。





「フレデリカ!セイド!頼む!」


「任せるのですわ!」

「おうよ!」



イノチの合図に二人はロノスを攻撃する準備を進める。

一方で、ロノスは未だ抗っていた。



「この力は…なんて強力な…彼の方から授かった力を持ってしても…解けないとは…」



動きを止められたロノスはそうつぶやいて、再びイノチヘ視線を送る。



(確定だ…彼もまた神に加護を授かった人間。しかも、彼の方よりもお強い誰かの…)



ロノスは兜の中で笑っていた。


自分と同じように、神に選ばれた人間がいた。

他のプレイヤーとは違う…"本当の意味"で選ばれた人間の存在は彼を歓喜させる。



(ククク…そういうことか。)



そう笑っているうちに、フレデリカたちの準備が整った。



「BOSS!いきますですわ!」


「あぁ!念には念を入れて、威力が霧散しないよう奴の周りに障壁も張った!」


「マジかよ!そんなことまで…ったく、どこまでチートなんだ!!」


「ロノス!お前の野望はここまでだ!!」



その瞬間、フレデリカとセイドがロノスに向けて、最大火力の攻撃を放つ。



「アンファール・バーストォォォォォォォォ!!」


「エシノ・ガイアスゥゥゥゥ!!ッラァァァ!!」



二人の叫びと同時に、ゴットイーターから放たれた竜炎と三叉槍から放たれた巨大な水龍が、ロノスに向かって襲いかかった。



「団長ぉぉぉぉぉ!!」



その様子を見守るイノチだが、突然、予期せぬ方向から聞こえた声に振り向くと、アカニシがこちらに駆けてくる姿が見えた。



「ア…アカニシ…!?あいつ、ケンタウロスと互角に戦ってやがったのか!?」



驚きつつアカニシの後方に目を向ければ、赤黒い炎に囲まれてあたふたしているケンタウロスの姿がある。



(ロノスのバフ効果でここまで強くなるのかよ…今の奴に加勢されたらロノスを確実に討てなくなる!)


「ミノタ!!」


「任せろだミノォォォォ!!」



イノチの指示にミノタウロスが駆け出してアカニシの前に立ちはだかった。



「くそぉっ!邪魔だ!!」



そう叫んで、走りながら再び剣を振るうアカニシ。

剣先から飛び出した赤黒いオーラが炎の弾となり、ミノタウロスへと襲いかかり、大きな爆炎を巻き上げる。



「ざまぁみやがれ!」



そう笑い、再びロノスの元へと駆け出そうとするが…



「痛いミノォォォ!この野郎だミノォォォォ!!」



炎の中から現れたミノタウロスが、巨大な斧を振り下ろしてきたのだ。



「なっ!直撃だぞ!?なぜ耐えられる!!」



それを瞬時にかわしつつ、驚くアカニシに遅れて駆けつけたケンタウロスが告げる。



「ミノタの防御力は彼の水竜の一撃を耐えるぜ!お前程度の技じゃ突破は無理だ!」


「くっ…!」



悔しげに距離を取るアカニシの視界には、今まさに大きな炎と水の渦に包み込まれようとする団長ロノスの姿があった。



「団長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



しかし、手を向けて叫ぶアカニシの声も虚しく、彼の目の前でロノスは炎の竜と水の竜の口に飲み込まれていった。



着弾と同時に大きな爆発が巻き起こる。


フレデリカの『アンファール・バースト』はこの世で一番高温とされる炎を射出する炎魔法である。

それがセイドの水龍とぶつかり合い、水蒸気爆発を巻き起こしたのだ。


あたりには衝撃波とともに、熱風と霧が吹き荒れ、イノチたち三人もそれに耐えるように体を縮こめる。


勢いが収まり、爆発に巻き上げられた水が雨のように降り注ぐ中、イノチはゆっくりと目を開けてロノスの様子を確認する。



「や…やったのか…」



ロノスがいた場所は大きな穴が開き、バラバラになった鎧の破片らしきものが残っていた。



「体のほとんどが吹き飛ばされたようですわ…」


「……」



フレデリカもセイドも肩で息をしながら、イノチと同じ場所を見ていた。


イノチがゆっくりとそこまて歩いていき、その破片を拾う。

そして、それを握りしめて少しの間目をつむり、再び目を開いた。



「…行こう。エレナたちと合流して、レンジさんたちをレオパルの元へ連れて行かなきゃ…」



その言葉にフレデリカもセイドもうなずいた。


膝をつき、ロノスがやられたと悟ったアカニシは地面に両手を置いた。



「てめぇら…許さねぇ…」



小さくつぶやくアカニシの声はイノチには届いていない。



「絶対に…絶対に俺が殺してやる…!」


「それは叶わないだろうな。」


「…っ!」



ケンタウロスの言葉にキッと顔を上げるアカニシだが、その直後、ミノタウロスの手刀によりその意識を深く沈めていった。





「何が…!何がどうなっておるのだ!?」



レオパルは部屋の片隅で座り込み、小さく震えていた。


大きな爆発が何度も起こり、その様子を見に行った家臣たちは皆戻ってこない。


そして気づけば、すでに中庭までレジスタンスたちが攻め込んでいるのだ。



「宰相は…!護衛の兵士たちはどこへ行ったのだ!うぅぅ…」



頭を抱えてレオパルは体を震わせる。


恐怖により顔中が体液だらけ。

その姿は一国の王とは到底思えなかった。


だが…それも仕方ないことであろう。

自らの命に危険が迫っているのだから。


ガチャッ!


突然、部屋のドアを誰かが開けようと鳴らした。

レオパルはそれに反応して体を強ばらせる。


誰かはわからないが何度もドアノブを回し、開かないとわかると今度はそれが大きな衝撃音に変わった。


おそらくは蹴破ろうとしているのだろう。


そして、何度か叩きつける音が聞こえたかと思えば、バァーンとドアが開いて一人の男が入ってきたのである。


その後ろに一人の女性を引き連れて。


その女の顔を見たレオパルは驚きと歓喜を顔に浮かべ、すぐに立ち上がって駆け寄った。



「レアー!貴様、どこに行っておったのだ!他の…他の家臣たちはどうし…た………おい、こ…この男は誰だ?」



見知らぬ男の顔を見て訝しむレオパルに、レアーと呼ばれた女はにっこりと笑う。



「フフフ…この方は貴方さまを救いにこられたのです。」


「私を?救いに…?な…ならば早くここから逃すのだ!」



レアーの言葉を聞いたレオパルは男にそう命令するが、彼は黙ったまま答えない。


その態度にレオパルの怒りが溢れ出た。



「き…貴様!!何とか言わぬか!国王を前にして無視するとは失礼であろう!レアーよ!この者を殺せ!これは命令だ!」



しかし、レアーは首を振った。

そして、それに反論するかのように今度は男が口を開く。



「傲慢な王よ、お前はこの国に要らない。ここで退場だ…」


「た…退場だと…何を言ってい…かひゅっ!」



レオパルがそこまで告げた瞬間、彼の首が宙を舞う。

その前で男は剣をを振り抜いていた。


美しく光り輝く剣身を持つ『ミストルテイン』を。


レオパルの首が遠くに落ちると、残された体は膝をついてこの場に崩れ落ちた。



「これでひと段落ですね…レンジ。」


「あぁ…まずは一歩目だ。スタンもご苦労だったね。」



二人は互いにそう言い合うとゆっくりと振り返り、その部屋を後にするのであった。

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