9話 ロノスの興味


「BOSS…私があの黒い鎧の相手をしますですわ。」



フレデリカはイノチの横でそうつぶやくと、イノチも「あぁ頼む。」と小さくつぶやいて後ろへ下がった。


イノチ自身、ロノスと自分の力の差はすぐに理解できたし、ここにいるメンバーで渡り合えるのはフレデリカだけだと判断したのだ。


拳をパキパキと鳴らしながら、ゆっくりと前に出てきたフレデリカを見て、アカニシとセイドも身構える。


そんな様子を見ていた団長ロノスが、フレデリカに声をかけた。



「君がこの中で一番強いんだね。なるほど…で、俺の相手をするって訳かい。」


「普通に考えればそうだと思います、ですわ。」


「確か、後ろの彼が君たちのBOSS…だったね。」


「…だったらどうだっていうのです?」



フレデリカの問いかけにロノスは笑う。



「どうだもなにも…僕は彼と闘いたいんだよね。君とじゃなくて…」


「だからといって、はいそうですかとなると思のですわ?」



ジロリとロノスを睨みつけるフレデリカ。

しかし、ロノスも怯む事なく相変わらず飄々と受け応える。



「思ってはないけどさ…でも、たぶん彼は君より強いだろ?もちろん総合的には君には敵わないだろうけど…ね。」


(こいつ…BOSSに何かを感じ取っている訳ですわね。)



ロノスの言葉により警戒心を高めて、フレデリカはイノチの前に立つ。


その様子を見て、ロノスも諦めたように笑った。



「まぁ、仕方ないね。とりあえず、君を倒してから彼とご対面といこうかな。アカニシ、セイド、二人は神獣の相手を頼むよ。彼女がそうご所望してるからね。」



アカニシもセイドも、彼の言葉に無言でうなずいた。



「ケンタ!ミノタ!油断はするなですわ!」


「おうよ!任せとけってんだ!」


「そうだミノ!!今回はぶっ倒すミノ!!」



フレデリカの言葉に、神獣ケンタウロスとミノタウロスも前に出てくる。


二人とも得物を手に持ち、アカニシとセイドの前に立ちはだかった。


その様子にセイドは小さくため息をつく。



(大丈夫かよ…ミノタウロスのやつ、ちゃんと作戦を理解してんだろうな…)



相対するミノタウロスは鼻息を荒くしてやる気満々だ。

その様子を見て少し不安になるセイドだが、それはイノチも同じだった。



(ミノタのやつ…作戦忘れてないよな?どう見てもセイドを倒す気満々なんだけど…)



セイドが仲間だということは、ケンタウロスにもミノタウロスにも事前に伝えてある。


団長ロノスがこの場に直接の来たことは予想外だったが、この状況は作戦の範疇なのだ。


ケンタウロスの様子を見れば、それをちゃんと理解はしているようではあるが、ミノタの方は…


しかし、心配するイノチに気づいて、ケンタウロスがチラリと目配せする。


ミノタウロスはこれでいいんだと言わんばかりの視線に、イノチもなぜだが少し安心した。



(ミノタには難しいことは抜きってことだな。ここからは実戦…考えても仕方がない。場面場面で対処していこう…まずはこの戦いを切り抜ける!)



イノチはそう決心して、仲間たちの戦いを見守る事にしたのだった。


フレデリカとロノス、ケンタウロスとアカニシ、ミノタウロスとセイド。


それぞれは互いに影響されないように、少し距離をとって向き合った。



「あんた…前回俺に負けたプレイヤーだよな。今回も痛い目みせてやるよ。」


「だまれ、クソモンスター。今回は前のようにはいかねぇ…」


「カカカ…」



ニヤリと笑うケンタウロスに対して、アカニシは怒りを浮かべてギリッと歯を鳴らした。


一方では…



「ミィィィノォォォ!!!やってやるミノよぉぉぉ!!」


「はぁ…勘弁してくれよ、まったく…」



とてつもなく大きな斧を、軽々と持ち上げて気合を入れるミノタウロスの前で、心配が拭えないセイドは鎧の上から頭をかいている。


そして、フレデリカたちはと言うと…



「さて、さっさと終わらせようか。」


「まったく、舐められたものです。だけど、わたくしも最初から全力でいきますですわ。」


「舐めてないさ…君は強いってことはわかってる。だけど、それよりも俺が強いこともわかってる。」


「ちっ…減らず口を…」


「…フフフ、おしゃべりはこの辺で終わりにしよう。」



ロノスはそう告げると腰に挿していた剣を抜く。

鋭く、そして透き通った音が響き、美しく光り輝く剣身が姿を現した。


そのまま鎧をガシャンと鳴らし、剣を構えるロノスに対して、フレデリカもファングソードの剣先をロノスに向ける。


イノチが見守る中で、戦いの火蓋が切って落とされた。





「始まったね。」



王宮内に高くそびえ立つ塔の一つ。

そこに立つ一人の男はそうつぶやいた。


銀色に輝く髪を風になびかせ、彼は眼下に広がるその様子をジッと眺めている。


君主を守るべく武器を振るう兵士たちと、自由を求め独裁者を討つべく攻め入るレジスタンスたち。


両者のせめぎ合いは激しさを増し、轟く声はまるで天への祈りのようだと男は感じた。



「君たちの願いのどちらが、神たちに聞き入れられるのだろうか…」



そうつぶやいて、男は人々の争いを物憂げに眺めている。

そのうち、彼の目には涙が溢れ、それが頬を伝った。



「…理不尽な神たちによって、運命さえも決められてしまう哀れな人間たち。神の手のひらの上で転がされていることにも気づかず、選択の一つ一つが自分たちで選んだ未来だと信じているなんて…」



涙を流しながらとても残念そうに一人で嘆く彼は、自分の涙を一粒拭って口に入れる。


そして、目をつむると、その味をしっかりと味わうように口の中で転がした。



「これは君たち人間の悲しみの味…僕はこれを忘れないよ。この渦巻く悲しみの連鎖から君たちを解き放つ…僕が必ず…」



両手を広げて天を仰ぎ、泣きながら目を開く。

そんな彼の左目には、まるで時計を形取ったような瞳があった。


男は少しばかり想いに耽るようにそのままでいたが、やがて涙を拭い、顔を前へと戻す。


そして、戦う人々の姿を見渡しながら一言だけつぶやいた。



「ロノス…とりあえずは頼んだよ…。この世界を救うために…まずはこの国を取り戻そう…」



最後に再び物憂げな表情を浮かべ、男は静かに姿を消した。

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