6話 団長のスキル
「ガハハ!久しぶりだなぉ、嬢ちゃん!」
気持ちの悪い笑みを浮かべ、アレックスに対してそう笑うのは巨大な斧を肩に担いだハーデ。
その横にはすました表情を浮かべるメテルの姿もある。
東門前での戦いを制し、その広場を抜けてレオパルまでの活路を開くべく、王宮内を突き進んでいたエレナとアレックスの前に立ちはだかったのは、クラン『創血の牙』支部長のハーデとメテルであった。
「げえぇぇぇ♪おじさん、また来たのぉ♪」
「こいつら、この前あたしたちにボコボコにされた奴らじゃない。」
ハーデの言葉に対して気持ち悪そうに口を押えるアレックスの横で、エレナは腕を組んだままあきれたようにため息をついた。
「相変わらず余裕を見せつけてくれるぜ。だが、今回はこの前のようにはいかねぇ!!」
「そうです。今回は近くに団長がいますからね。スキルの恩恵を受けた我々はこの前とは違いますよ。」
「スキル...?恩恵?何のことかわからないけど、さっさとそこを通してもらうわ!!」
エレナはそう告げると、両手にダガーを構え、一瞬で二人との距離を詰めた。
そしてそのまま、メテルへ向けてダガーを振りぬいた。
「まずは厄介なあんたからよ!!」
フレデリカとメテルの一戦を見ていたエレナは、厄介なスキルを持つメテルの方を先に倒すべきと判断したのだろう。
しかし、エレナの思惑を見透かしたかのように、そのダガーは空を切った。
「な...!?」
目の前のメテルがいなくなり、一瞬驚いたことで隙ができたエレナに対し、ハーデが巨大な斧を振りかぶる。
「よそ見してんじゃねぇぞぉぉぉ!!」
「ちぃっ!!......!?」
まさに振り下ろされようとしている斧をかわそうと、エレナは回避行動をとろうとしたが、なぜか足がその場から動かさなくなっていることに気づく。
「うそっ?!」
「ガハハハハハ!!死んだぁぁぁぁぁぁ!!!」
目を見開き、エレナに向けて巨大な斧を振り下ろすハーデ。
しかし...
ガキィィィィィン!!
間一髪のところで、アレックスが間に割って入り、大きな盾でその斧を受け止めた。
「アレックス!!」
「うぐぐ...エレナさん、考えずに飛び込んじゃだめだよぉ♪」
エレナを諭すように告げるアレックス。
ギリギリと音を立てながら、斧を抑えるそんなアレックスに対して、ハーデがニヤリと笑みをこぼす。
「さすが嬢ちゃんだぜ!!ほんと惚れ惚れする防御力だぁ!!やっぱりお前は、俺がいただくぜぇぇぇ!!」
「うわっ!キモい♪でも、な...なんだろう♪お...おじさんの力が...前よりも強くなってる♪?」
「アレックス!あたしに任せなさい!!」
動けるようになったことに気づき、必死に耐えるアレックスに加勢しようと立ち上がろうとしたエレナは、突然真横から蹴りを受けてしまう。
「ぐっ!!な…!?」
体勢を崩しながらもその方向に目を向ければ、先ほど姿を消したメテルが笑っている様子がうかがえた。
「よそ見はいけないな。ククク…」
「この…ちょ…調子に…」
イラッとしてすぐに体勢を立て直しすエレナ。
だがその瞬間、メテルに蹴られた部分が赤く光り始めたのだ。
「なにこれ…えぇ!!」
その光は、キーンと収束する音を立て、最後に大きく輝き出す。
そして…
「ヒヒヒ…爆ぜろ!」
メテルがそう笑った瞬間、エレナを中心に大きな爆発が巻き起こった。
「ひゃぁぁぁぁぁ♪」
「ごわぁぁぁ!?」
その衝撃に巻き込まれるアレックスとハーデ。
その横で大笑いしているメテル。
粉塵が巻き起こる中で、彼の笑い声が響き渡った。
そんな中、舞い散る砂ほこりの中から、ハーデがゆっくりと姿を現す。
「メテル…てめぇ、ちったぁ考えてスキル使えや。」
「すまんすまん。しかし、やはり団長のスキルは素晴らしいですね。ステータスの向上の仕方が半端ない。」
埃を払いつつ愚痴をこぼすハーデに笑いながら、メテルは嬉しそうに砂ほこりの中心を見た。
一方、砂ほこりの中では…
「エレナさん、大丈夫♪」
「え…えぇ…。ちょっと効いたわね、イテテテ…」
怪我こそないが、体のところどころを押さえているエレナの元へアレックスが近づいてきた。
「…あいつらの攻撃力、以前より上がっているわよね?」
「うん♪あのおじさんの力、確かに強くなってたよぉ♪」
「たしか…団長がどうとかって言ってたわね。それが関係してるのかしら…」
「たぶんそうだろうねぇ♪」
エレナは大きくため息をついた。
「面倒くさいわ…ほんと。弱いくせにピーピー騒いで…自分の力じゃ何もできないくせに…」
「そうだねぇ♪イライラするよねぇ♪エレナさんにこんなことして…許せないよねぇ…」
少しずつ二人の様子が変わり始める。
表情は暗くなり、ぶつぶつと怨嗟を連ねる二人の背には、ゴゴゴゴゴッという地鳴りのようなものが可視化しているように見えた。
「…アレックス、本気でやるわよ。あいつらに目にものを見せてやるわよ。」
「うん…BOSSの邪魔は…させちゃだめだもんねぇ♪」
・
「さてさてさて…どうするかい?」
漆黒の鎧が不敵に笑うその横で、赤い鎧を着たアカニシはイノチをじっと睨んでいた。
対するイノチも、アカニシから目を離さずにいる。
「アカニシ…」
「またてめぇか…プレイヤーでもねぇのに俺らの邪魔ばかりしやがって…しかも、その面見てるとやっぱりムカつくぜ。」
互いに睨み合うイノチとアカニシ。
アカニシにはもちろんイノチのネームタグは見えていない。
そのため、プレイヤーであることはバレていないが、なにせイノチの顔はそのままなのだ。
彼の中には、イノチに対して疑心しかないのである。
「そかそか、君たちは因縁があったよね。なら、思う存分やっちゃおうか!」
そんな二人を見て笑う漆黒の鎧の男。
手を叩いてふざけたようにそう告げる男の前に、今度はセイドが立つ。
「団長、勘弁してくれよ!俺が仕事嫌いなの知ってるだろ?特にレオパルの件では動きたくねぇのに…」
「そういうなよ、セイド…今日はそういう訳にもいかないんだ。俺の命令は聞いてもらうよ。」
その言葉に大きくため息をつき、仕方なさそうに手を振るセイドは、ちらりとイノチに視線を向けてすぐに背を向けた。
(漆黒の鎧…奴が創血の牙の団長だったのか。セイドのやつ、ナイスタイミングだ。だが、まだ手の内は伏せておくほうがいいな。こちらにはケンタとミノタがいるし…)
セイドはイノチ側についている内通者だ。
ラビリスの大空洞の件で、彼はイノチと手を組んだのだ。
今の視線は彼からの合図…わざと会話に入り込んでイノチたちに情報を渡したのである。
イノチの後ろではケンタとミノタが鼻息を荒くしており、出番はまだかまだかと待ち侘びている。
フレデリカに視線を向けると、彼女もその視線を待っていたかのように小さくうなずいた。
「…とりあえず、こいつらを倒さないと前には進めないようだ。なら、ここで決着をつけるしかない!」
仲間を背にしたイノチは、そう告げて力強く前見る。
その視界には赤い鎧も映り込んでいる。
「いいね!さぁ、君の力を俺にもっと見せてくれよ!」
イノチたちの様子を見た創血の牙団長のロノスは、楽しげにそう言い放った。
その鎧の中で赤い瞳を輝かせて…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます