25話 ギルドに行こう!


「はぁ…」



リビングの椅子に腰掛け、イノチは大きくため息をついた。


この『イセ』の街に来て、一週間ほどが経過しているが、拠点ゲットに、SR、URも引き当てるなど、順風満帆な生活を送れているはずなのだが…



「はぁ…」


「BOSS、どうしたのですわ?」



横に座るフレデリカが、その様子に疑問を投げる。イノチはそんなフレデリカを見て、再び大きくため息をついた。



『フレデリカ=アールノスト』


URという高レアリティのキャラクター。

魔法アタッカーでありながら、錬金術師という能力も兼ね備えている。


獲得した次の日に、森で力試しをしたが、まさに高火力。ウルブズなどの格下モンスターはもちろん、ビッグベアなど中級モンスターも強化薬なしに簡単に倒してしまった。


その時のエレナの顔は、今でも忘れられない。


それでからか、先日のスイーツ大戦争の件も相まって、二人の仲は少しギクシャクしている。


まぁ、エレナが一方的にライバル視しているだけなのだが…


フレデリカについて話を戻そう。


確かに高火力で頼れる強力なキャラであるのだが、そんな彼女にはひとつだけ欠点がある。


それはというと…



「BOSS!お腹が空きましたわ!食べるものはないのです?」



そう、相当な"大喰らい"なのである。



「…さっき朝飯食べたばかりだろ?」


「そうなのですが、全然足りないのですわ!メイさんに何か頼もうかしら…」


「メイはいないよ。アキンドさんところに用があるって…出かけていったから。」


「なんと言うことでしょう…」



絶望的な表情を浮かべるフレデリカを見て、イノチは頭を悩ませ、大きくため息をついた。


館の賃料を含め、支出はかなり多い。


それらの支出は、毎日モンスターを狩ることで得られるゴールドでまかなっているのだが、フレデリカの大食いにより、収支のバランスが突如として崩れ去ったのだ。



「このゲームって、RPGじゃなかったっけ…製作者は生活シミュレーションゲームと間違えてんじゃね?」



つぶやくイノチだが、愚痴をこぼしても現状は打破できないのも事実である。


携帯の画面に目を落とす。

プレイヤーレベルが15に達し、今や全ての機能が解放されている。



『フレンド』

気の合ったプレーヤーと友達に!通信やメッセージで交流を深めよう!


『クラン』

フレンドとクランを作ろう!すでに存在するクランには、申請が承認されれば入れます。※大規模なクラン戦にも乞うご期待!


『ランクマッチ』

プレイヤー同士で力試し!個人戦でランクを上げ、上位を目指そう!上位になれば良いことがあるかも…


『ギルド』

各都市には商人ギルドや冒険者ギルドがあります。ギルドで登録をするとクエストが受注でき、依頼に応じた報酬が得られます。



「ギルド…か…」



イノチが画面のアイコンをタッチすると、メッセージが表示された。



『この機能を使用するには、まずギルドでの登録が必要です。』


「ギルド…クエスト…報酬…そうだな!」



イノチは何かを決めたように立ち上がると、フレデリカに声をかけた。



「フレデリカ、ちょっと付き合って!」


「何か食べ物でもあったのです?」


「違うよ!これからギルドに登録しに行くんだ!毎日遠くの森までモンスターを狩りに行っても、大したお金にならないからな!」


「がっぽり稼ぐ、そう言うことですわね!」


「察しがいいね!」



笑みを浮かべて立ち上がるフレデリカに、イノチは指を鳴らす。



「エレナは…彼女は連れて行かないのですか?」


「あいつはメイと一緒にアキンドさんのとこに行ってる…今日の賃料を払いにね!」


「なるほど…だから静かでしたのね。」



天然なのか、にっこりと笑って恐ろしいことをつぶやくフレデリカ。

絶対にエレナには聞かせられないなと思いながら、イノチはフレデリカに忠告する。



「そう言うこと…本人の前では言うなよ、フレデリカ…」


「なぜですの?」



理解できないというように首を傾げるフレデリカに、イノチはため息をつくと気を取り直して声をかける。



「まぁいいや…そんじゃ、まずはギルドに行ってみよう!」





各都市には必ず冒険者ギルド、商人ギルドの二つがある。


冒険者ギルド:魔物の討伐や魔物から取れる素材の採集

商人ギルド:魔物以外の素材の採集や物の製造、販売、運搬


この二つのギルドは、共同で仕事を請け負うこともある。


例えば、物を運搬する場合は、商人ギルドがそれを請け負うが、冒険者ギルドはその護衛にあたる。


街道など、道中にはモンスターや盗賊など、危険が多いためだ。


一般的にギルド登録は、両方のギルドに行うのが通例で、そうすることでより効率的に依頼を受けられる仕組みとなっているのだ。



「とりあえず、どっちのギルドにも登録し終わったな。まずは簡単な依頼からこなしたいところだが…」



イノチは現在、フレデリカと共にギルド総館に来ている。


登録を終えたイノチは、まずは商人ギルドの依頼を受注するため、掲示板の前で睨みを効かせていた。



「う〜ん…どれにするかなぁ。」


「商人ギルドの依頼にするのです?」


「あぁ、冒険者ギルドの依頼はモンスター討伐ばっかりなんだよ。モンスターの素材集めもレアリティが高くないと、あんまり報酬良くないし…非効率なんだよ。それに比べて商人ギルドは戦わずに稼げるものが多いからな!」


「なるほどですわ!では、これなんかどうですの?」



掲示板から依頼書を一枚取り外して、フレデリカはイノチにそれを渡した。



「ん〜なになに…『銀狼のベスト』10着の納品…報酬額は5,000ゴールド…なかなか良いな…でも、『銀狼のベスト』ってどうやって作るのかわかんないしな…」


「私が作れますわ。」


「えっ…どうやっ…あっ…!そうかその手があったか!」



イノチは思いもよらないといった顔をして、フレデリカに顔を向けた。



「フレデリカ、この掲示板にある物の中で、俺が持ってる素材から作れるものってあるか?」


「え〜と…そうですわね、これとこれと…これ、あと…これかしら。」



イノチはそれらを受け取り、内容を確認する。



【依頼内容】『小鬼の秘薬』×10

【報酬額】10,000ゴールド

【備考】ゴブリンの牙から製作可能。夜のお供にどうぞ。


【依頼内容】『カッタナイフ』×10本

【報酬額】2,500ゴールド

【備考】ゴブリンのツメから製作可能。小さなものなら大抵切れます。細かな製作作業の必需品。


【依頼内容】『熊ナタ』×5本

【報酬額】9,000ゴールド

【備考】ビッグベアのツメから製作可能。料理をするならこれ一本。


【依頼内容】『ベアナックル』×1個

【報酬額】5,000ゴールド

【備考】ビッグベアの牙から製作可能。喧嘩上等、そのお供に。



「…けっこう稼げるな!よし、じゃあこれ全部受けるぞ!」


「イエッサーですわ。」



フレデリカから依頼書を受け取ると、イノチは受付へとそれらを持っていく。



「あの、これを受けたいんですが。」


「こちらの4つの依頼ですね!かしこまりました。では、ギルドカードをご提示ください。」


「ギルドカードね!はいはい、どうぞ!」


「…あら?あなたFランクなの?」



イノチのギルドカードを見ると、受付の女性は悩ましい表情を浮かべた。



「この4つの依頼は、いずれもDランク以上じゃないと受けられないのよ。」


「まっ…まじかよ…そういうシステムなのね…」


「依頼をクリアしてギルドポイントを貯めればランクアップできる…って登録の時に言われなかったの?」


「まっ…まったく何も…」



それを聞いた女性は大きくため息をついた。



「今日の受付は…タラクか…あいつほんとに仕事しないんだから…」



ギラリとした目つきで登録受付であくびをする女性を睨みつけると、イノチに向かって謝罪する。



「ごめんなさいね…それについてはこちらの不備です。あとでマスターに伝えておきます。」


「はぁ…仕方ないですよ。しかし、やばいな…Fランクの依頼だと、たくさん受けたところで大きな報酬は望めないしな…」


「ごめんなさい…決まりだから…」



思いもよらぬ落とし穴。


イノチたちがどうしようかと考えていたその時、後ろからどこかで知った声が聞こえてきたのだ。



「その方なら信用できます。その依頼を斡旋して差し上げなさい。」


「マッ…マスター!」



受付の女性が視線を向ける方へイノチも振り返ると、そこには知った顔ぶれが並んでいたのである。

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